麗

『最近の事情』
はあ
はあ
はあ……
やっとつかまえた。
え？
ううん、なんでもないのよ。
あなたには関係のないこと。
どうも暖かくなると
みんながはしゃいでしまうというだけ。
確かにそのうち必要になるものだけど
しまっておいた水着の試着は
人の目があるところでするものではないし
ましてや偶然その場に出くわして
ぎょっとしている人をつかまえ
一緒に着替えて見せ合おうというのは
私の人生において一般的な行為とは判断できないから
巻き込まれないうちに逃げ出すのも
最も安全な選択と言えるはず。
自分の目で見えない部分に穴が開いていないかは
鏡を使う──
それだけの体の柔らかさは
確保していると思う。
たとえ少しの運動不足があってもね。
また、逃走が必要だった場面の
すぐ後で
かまってもらいたがった妹が面白がって
自分の当番でもない日記を持って逃げ回ったのも
多少息を切らして運動した記憶だけを残して
陽気のせいで済ませるのが一番ね。
めんどくさくないし。
別に、全力で追いかけてまで
日記を書きたいわけではないわ。
でも、人を他の動物と区別するのは
ルールだとか決まりだとか堅苦しい話までは行かなくても
一度約束したことを守る気持ちだと思うし
同じように鉄道車両をただのステンレスやアルミニウム合金や強化プラスチックから変えるのは
高度な設計の技術と正しく進む時刻表であり、
それから料理と黒焦げを隔てるものは
レシピの分量と調理の手順と
正常に働くキッチンタイマーであると言えるわ──
結局ほとんどの子が手をつけなかったお皿が
いつのまにかわずかな食べ残しを残すだけだったのは
誰がどんな魔法を使ったのか
私は何にも知らないけど──
とりあえず今日の当番を任せられた日記で
お大事に──と書くことだけは決めておいたから
そうするわ。
どんなに丈夫な消化器官でも
物理的な存在である以上は
どこかに限界があるかもしれない。
私、立夏ちゃんに秘密にするくらいのことは出来ると思うわ。
無理はしないようにしてね。