綿雪

『約束』
お兄ちゃんへ
一日ぶりのうれしい報告をしたいの。
みんなが助けてくれたおかげで
ユキはすっかり元気になったということ。
それから──
ユキの家族は優しいお姉ちゃんがいて
いつも感謝ばかりで
返しきれない──
幸せばかりをもらっているということ。
今日は平成最後の日です。
いつも一緒にいてくれて
大好きなお兄ちゃんに
お話したいことが頭に浮かんで
とまらない。
誰だってこんな記念の日には
お兄ちゃんとお話できたらいいなと思うの。
だから今日ばっかりは
日記の順番はじゃんけん。
気持ちは盛り上がるけどここはやっぱり平等に
全員参加の勝ち抜きじゃんけんで
勝ち上がったのは
なんと!
じゃじゃーん!
……
じつは──
麗お姉ちゃんだったんです。
だけどこんなに楽しい
みんなで過ごす日に
令和の鉄道イベントが
たくさんたくさんあるのを
調べて伝えたところで
別に誰も喜ばないようなことしか書けないから
どうか元気になったユキが代わりをして
すばらしい報告をしてくれないかと
日記を渡されました。
病気にくじけないで
いつもがんばって
お熱が出ても良い子でいて治したことを
伝えたら──
うれしくならない人なんているわけがない!
麗お姉ちゃんはそんなふうに言ってくれたんです。
あの──
ユキは──
本当なら嘘つきで本当の気持ちじゃなくても
いつか必ず丈夫な体になって
家族で一番に元気な子に育つんだ、
すっかり病気を治すんだって
みんなと過ごした楽しかった平成から
時代が変わるこんな特別な日に
大事なことを
きっと伝えなくちゃいけないということ
わかってる。
病気がどうなるか
これから先もまだ確かではなくて
体の弱いユキがこれからもいることが
本当なのだとしても──
今、特別な時間を
ユキのそばにいてくれるお兄ちゃんに
伝えたい言葉は
これからもきっとユキは
迷惑をかけてしまうんだということと
それでも絶対
みんながいるから
決してこれから何があっても
最後の最後の一番最後のそのときまで
負けないでいようと思う──
そうしたいの。
泣いてしまっても
弱音を吐いても
うつむいてしまっても
でも
みんながいてくれるから
がんばっていくんです。
必ず確かな誓いというわけでもなく
すがるような祈りでもなく
ただの願いではなく
これはユキが自分で考えて決めた
お兄ちゃんとの約束。
ずっといつまでも
何があっても決して忘れない指きり。
小さなユキが──
みんなのためにできることは
きっとそれだけ。
それだけです──
でも、いいんです。
だからどうか
新しい時代が来て、
いろんなことが変わっていっても
ずっと変わらない家族のままでいてください。
熱を出したり
大変なことばっかりで
騒がしく──
私たちの毎日は続いていくと
思っています。
そして、お兄ちゃんへ
平成最後の挨拶をするとき
みんなの気持ちは同じ言葉になりそう。
だから、お兄ちゃん。
どうか、これからもよろしくね。