立夏

『バトルインフリーザー』
あー
暑かった!
桜の花びらも舞い落ち
足元に柔らかなピンクのカーペット。
いよいよ出会いの春のその先へ
進んでいく感じがして
今日は元気のない街のこいのぼりの代わりに
立夏がどこまでもはしるはしる!
目的がなくても走る、
楽しいことがあったらなおさらで
悲しくても河原へ大声を出しに走る、
街のどこでも
立夏の走る姿を見つけられない場所はないのだから。
といっても目撃情報はおうちの近くが多め。
ただいまー!
汗かいた!
のどかわいた!
あ、
ああーっ!
なんかいいにおいが!
あたたまりそうなにおいがする!
ふだんあまり飲まなくても
すてきな大人のおねーちゃんがいれば、
あるいはやさしいオニーチャンがいる子はきっとみんな
知っている──
いい香りがするコーヒーの深みのある黒を
すぐに見つけてしまうの。
おちつくような
うきうきするような──
眠いときとかによくカフェインを体に入れるよ!
リカはなめるだけだけど。
そんなに飲めなくても
でも、いいんだもーん。
春本番のぽっかぽかな日が続いて
冷蔵庫には麦茶がみんなののどを潤すのを
待っていて──
あれっ!
み、みて
オニーチャン!
くもりの日で
走り回るわけではない大人のみんなには
テーブルの上にティーポットが用意されて
冷蔵庫はすっかり空いた分の
食材が、
これでもかと!
大きな体で居座っている。
タッパーのお肉やお魚、
どうも野菜室に入りきらなかったらしいピーマンに白菜、
家族の体を作りがっちり堅く健康を守るおいしいものが
いっぱいで──
意味もなく走りすぎたリッカののどにしみこむ麦茶が
まったくない。
うえーん!
お茶を冷ますのを手伝ってー!
リカがついでるあいだ
お話し相手になってくれたらいいヨ。
やがて今日の報告が一通り終わり
ひといきつくころに
お茶は程よく冷めている──
もしかすると、ティータイムにおつきあいしてくれる
オニーチャンのおしごとは
さめすぎてぬるくならないうちにお知らせすることかもしれないけど──
なんちゃって。
椅子を隣に並べて
ふたりの席はこちら。
汗くさくても近づいてしまうのが
とめられないリッカなのを
わかってネ。