吹雪

『ティア』
私たちの家には
季節や天気など外部的な条件に大きく左右されることなく
みんなが喜ぶメニューというものが存在します。
そのうちのひとつがカレーライス──
今日はお手伝いに不満を言うものは誰もいません。
紅潮した頬で、肩を回して
争うように並んで流し台で手を洗った後は
どれだけおいしいカレーを作れるかは
自分の腕にかかっていると
その場にいる全員が考えているみたいに
熱意がキッチンに充満します。
にんじんとジャガイモの皮むきも
食器の準備も
順調に進んでいく工程の中、
ただ一つだけ私たちの前進を阻む壁となるのが
誰もが苦手とするあの──
タマネギをスライスしたときの刺激。
あらゆる人間はタマネギの前では平等に
目と鼻につんとした刺激を知る。
まな板と向き合えば残らず
涙を流さないものはなく
試練を乗り越えることを強要されないものはない──
と、これまでは共通の認識でしたが
私くらいの年齢でしだいに包丁にも慣れ
今日はじめてタマネギと向き合ってみると
生まれつきなのかあるいは規則的な生活が良いのか
目にわずかな刺激を感じるだけで
涙も何もいっさい流れ出す気配がない──
他のみんなとは違って一人だけの
不思議な体験をしました。
スライスの均一性も性格が反映していると言われ
タマネギを切るに家族で最も適した固体であると
自分でも認めないではいられません。
これからはカレーライスの日に貢献できる作業が
たいへん増えていきそうですね。
しかし、そのまま包丁に気をつけるようにと渡された
鶏のむね肉は──
固さが全体にわたって変化が微妙に変動し──
手元から逃げるように包丁の刃を渡ります。
一定の大きさに切るには
あまり条件が良くないと感じました。
次のカレーライスの日が来るころには
包丁を入れる部分が少なくて済む傾向がある
シーフードを提案できるよう
これから少し調べておこうと思います。
今夜──
春風姉から借りた料理の本は
大きく重く写真も多く
情報量が想定を超えていて
予想していなかった原因によって
夜更かしをする日になりそうですね──