綿雪

『やさしい声』
日差しが傾いて
山の端に落ちて
だんだんあたりが暗くなるころ
夜の闇にぜんぜん似合わない
明るい声が
玄関のほうから聞こえて
家の中はぱあっと明るくなる。
お姉ちゃんたちやお兄ちゃんは
学校がある日に帰ってくる時間は
このくらい。
何かいいことがあったみたいに元気な声で、
たくさんお土産話を持って少し疲れた声で、
ときどきただいまの声を玄関においていこうとするみたいに
大急ぎで廊下を駆け抜けていったりして
にぎやかな声は毎日必ず
待っていたユキの胸の中に
明るい火を灯す。
みんなが帰ってくるのを
ずーっと待っていました。
ちゃんとよい子で待っていました。
でも、ひとつ心配なことがあったの。
みんなが寒がっているときにどんどん上着をかけてあげて
きのうは寒そうにしていた海晴お姉ちゃん。
風邪を引いていたりして
大変な一日を過ごしてはいないでしょうか?
風邪の引き始めは
すばやい対処が大事!
だからみんなで
海晴お姉ちゃんの帰ってくる声が聞こえたら
いちばんを競って玄関まで走り
お気に入りの服をかけたり
冷えた頬に手を当ててみたり
疲れがすぐ取れるように肩を揉んであげたりしたくて
海晴お姉ちゃんの右手を狙い左手を奪い
癒してあげられそうな場所を取り合った後
100パーセント笑顔のまんたん元気に回復するのを見届け
ほかのお姉ちゃんたちにもこんなにいいことを届けたいと
疲れた姿を探しに駆けていくのです
ユキはそんなに早く走り出せないから
最後まで海晴お姉ちゃんの肩を揉んで
そんなふうにいつものお礼をしたいんだと話していたけれど
はたしてみんなはそれから
どこに行って誰から
大好きな家族を癒して回ったのでしょうか?
お兄ちゃんのところにもみんなはあらわれた?
遅れてしまったけど
これからユキが向かいますね!