ヒカル

『春休みの思い出』
おはようございます
こんにちは!
これから──
よろしくお願いします!
が言えたら、
教えを請う一歩を踏み出す者として合格。
いつも元気なあいさつから
出会いは始まるものだ。
胸の中にぐるぐる渦を巻く不安と緊張感、
奥のほうに沈んで
好奇心につられたみたいにときどき顔を出す
出会ったことのない景色への期待と
芽生える新しい始まりの予感──
宿題もなくのんびり過ごした春休みも今日でおしまい。
新生活への準備に
やることがいっぱいで大忙しの日が続いたと思ったら
ふいにぽつんと空いた時間に、
寒くて丸まっていた冬の間より
背を伸ばして遠くまで視線が届くようになった自分に気がつく。
景色はもう春の装い。
風に揺れる花びらが
光の透き通る木陰に、つぼみの開くにぎやかな花壇に
それぞれの色を誇るようにきらきら輝く。
お出かけ用のおしゃれに身を包んで
スカートをひるがえして駆けていく子供たちも
大きく太陽に向かって背を伸ばして
育っていくみたいに──
明るい表情でやっと訪れた春を楽しんでいるみたいだ。
こんなに気持ちのいいお天気なら
氷柱もユキも初めての場所で震えながらでも
誰にだって自慢できるくらい大きな声で挨拶できたに違いないんだ。
なにしろ私の妹だから
それは確かなことに決まっている──
明日から新学期が始まる
なんだか落ち着かない気分の日に
ユキが目を輝かせてどうしてもと頼むから
氷柱は小さなユキの手をとって弓道教室へ
一日だけの体験入部。
私が通っている場所じゃないけど
知り合いの名前はあったから──
ここなら大丈夫だって太鼓判を押して
背中を押して送り出してやった
私の行動は
間違っていなかっただろうか?
今日までみんなでいられた休日の一区切り、
こんな日くらいは家で一緒にいてやるのが
一番よかったのかもしれないなと──
弓道教室に向かった何人かがいなくなった分だけ
静けさを運ぶ昼間の日差しの中で考えた。
帰りを待つ間は
見ているだけで吸い込まれる絵画のような景色を
花びらが落ちる時間までゆっくり流れるみたいに
まるで何が起こるかわかってしまった錯覚までするんだ。
もうすぐ葉陰をもぐって行き交う
小さな足音が──
私たちに季節の暖かさを告げる夢。
ユキたちはいったいどんな顔をして帰ってくるのかな?
疲れているかもしれないから
張り切ってねぎらってあげないとな!