氷柱

『きまり!』
話を聞いてくれるだけでいいんだけど
ユキに広い世界を見せてあげたいし
立夏もその気ならお姉さんとして
きちんと妹を見ることもできると約束できるなら
まあそういう条件付きで
少し話を聞いてみたんだけど
私の友達がやっている習い事で
小学生から高校生まで歓迎の
弓道教室があるみたいなのよ。
たまたま小耳に挟んだ程度の内容だけどね、
ヒカル姉様が部活の助っ人で通っているほどの
上下関係も厳しいところとはまた別で
みんなが自分のペースで通えて
初心者大大大歓迎、
横断幕に名前を書いて歓迎する勢いだし
体が弱い子には無理もさせない、
それにたとえば、そう、あくまでたとえばの話で
進学優先で時間がない子でも
やってみたい気持ちがあれば
スケジュールの相談に乗ってくれるとも聞いたし
あまり関係ない話になるけれど
男子もあまり人数は多くないけど通っているそうで
先輩はみんな優しくて小さい子の面倒を見るのも慣れていて
もし心配ならお兄さんに来てもらっても
あまり居心地の悪い思いはさせないとか
なんなら一緒に通ってしまってもいいじゃない?
という勧誘までされてしまって
まったく困ったものね!
うちの躾がなっていない下僕を
一人で野放しにできるわけがないし
ユキも慣れた人がいたほうがいいだろうし
私も覚悟を決めないといけないかと思って
とりあえず申込書を四枚分もらってきたからいつでも見学に……
って、あれ?
なんだかみんな忙しそうに
進めている準備は──
ああ、そういえば月曜日から新学期ね。
そうよね、もちろん私たち学生は
やりたいことがいっぱいで夢があっても
何よりも学業が第一。
決まっているわ。
私だって別に春休みが終わるのを忘れていたわけじゃないけど
うちの子たちも小さいのにしっかりしていて頼もしいことといったら
もうほんとにこれからが楽しみで仕方がないわね!
ほらほら!
下僕もそろそろ準備をして
いつでも新生活を始められるようにしておくものじゃないかしら?
小さい子に教えられてばっかりでは恥ずかしいわよ。
部屋もしっかり気持ちよく片付けて
捨てるものは──
あれっ!? 私のこの手の紙切れはいったい何かしら?
しかも四枚も!?
妖しい春風の吹く季節には理屈で説明できない不思議なことがあるものね。
あなたも暖かくなったからって
妙に浮かれた空気に飲み込まれないように注意しなさい!
いつでも足元をしっかり踏みしめることが大事。
月曜日にはきちんと身だしなみを整えて
あわてたり寝坊などをすることなく気持ちをしっかり持たなくちゃいけないわ!