ヒカル

『はじまり』
砂まじりの風が吹いて
寒さを感じても
今日みたいによく晴れた日は
冬の間ほどに背を丸めなくて
なんとなく遠くまで見通せる時間が
増えている感じがある──
明日はもう少しピンと
遠くまで見えるようになれそうな感覚が
薄い雲にまだ少し隠れたがりの日差しからも
降り注いでいるような──
それとも、暖かさでほころんだ街の景色を
明るく照らす時間が増えているのが
毎日だんだん
遠くまで足を伸ばしたくなる距離が広がっていく理由を
説明しているのか。
風の強さと冷たさはまだすぐには変わらなくて
身を守るための冬用の上着がまだ手放せないと言っても
でもやっぱり重たい厚着の出番は
確かに少なくなってきている──
なんだか長いこと頼り切って
相棒みたいになっていたコートも
そろそろ押入れに場所を作って
押し込む準備をはじめないと。
だってみんながわいわい言って
片付けかけた服を丁寧にたたんでいるとき、
油断したせいで仲間に入れず
後から一人で片付けをすることになるのではと
想像したら──
どうせやるに決まっているなら早いほうがいいなんて
つい合わせる気持ちもわかるだろう?
固まっていた枝に柔らかく白くほころぶ眺めも増えて
歩く道の先にいつも新しい景色を見つける。
ほんの少しの
待ちきれないほどでもない未来の話で
今見ているよりもきれいな花が開きそうな予感がして──
発見した今までにない世界を
強引に手を引っ張って連れ出し
隣で見ていてもらいたい人がいる。
それは凍りついたような冬の暮らしからは
想像するのも大変だった日々で
震えながらぬくもりを求めて寄り添っていたあのときから
変わり続けることで
失ってしまう何かがあるとわかっても──ちっとも怖がらずに
一緒に同じ景色を見てもらいたい人がいると気がつく。
こういう気持ちになることを
春が来たと──言うのだろうか。
もうすぐお祭り好きの海晴姉が企画して
嫌でもお花見に連れ出されていくことになるんだ。
せっかくだから楽しめたらいいな。
桜が散るときも悲しい気持ちにならないで
きれいだなと思って眺めていられるとしたら──
私はその時も誰かと一緒にいるはずだと思うんだ。