氷柱

『探索系ガール』
春が近づいて
暖かい風が吹くと──
開いた窓から玄関から
廊下の奥のまた奥のほうへと
ほこりが溜まってゆき──
毎日すぐに掃除が必要になるのよね。
普段は特に気にもしていない隅っこに
視界の端に入っただけでもわかる
灰色のほこり──
強い風と乾燥しがちな気温がもたらす変化は
春が近いことを感じさせると言っても
あまりほのぼのしたものばかりでもないようね。
というわけで掃除機やほうきを探すんだけど
当然、家のどこでも需要があって
いつものところにきらめく赤いまんまるボディが
今日は見当たらない──
なんてことがよくあるの。
掃除の旅に出て行ったまま戻ってこない、
まあそういう状態になりやすいようね。
ないならないで仕方がないと
掃除そのものをあきらめるのは
春の陽気に誘われて遊びに行きたい
脳天気な娘たちにしか許されないので
私は掃除機を探すことになる。
心当たりをとぼとぼ歩いて
うわさのひとつにもぶつからなかったら
何か代わりのものでもないかと思って
押入れを覗いてみるのもよくある話。
たいていは柄が折れたほうきがあるだけだったり
掃除機の先っぽだけが悲しく本体を待ちぼうけして
暗がりから出てくることになるんだけど
本日、闇の中から掘り出されたものは
新品ピッカピカ
開封の──
サイクロン掃除機。
そういえばママが面白がって買ってみたものの
誰も使い方がわからず
どこかへ仕舞われたまま忘れられた掃除機があったっけ──
必要になってからひょいっと呼ばれたみたいに顔を出すさりげなさなんて
なかなか自覚があるわね!
立夏ちゃんが少し読んで放り投げた説明書は
改めて読み直してみると
まあそんなに操作は難しくはなさそうだし
あとは使ってみて覚えるだけ!
というわけだから経験もかねてと
せっかくの働き者にどしどし出番を作る意味も込めて
次の週末には家中にサイクロンの強烈な吸引力の音を響かせるなんてどうかしら。
もちろん下僕の部屋も解放してもらうことになるからね。
抵抗することも許されない──
そういう掃除が大家族にはときどきあるのよ。