真璃

『前日』
おうちへ急ぐカラスの声が
お山のほうへ帰っていく頃。
猫もねずみも女の子も
ねぐらへ走る。
そこには暖かな食事の香りがする湯気と
お日様を浴びたほかほかお布団のベッドと
好きなおもちゃと
大好きな人が待っている──
そして女の子は
一日のことを思い出しながら、
明日の予定を頭に描きながら
安心して眠りにつくの。
だけど今夜は
お風呂上りの髪をとかしたマリーが
なぜか落ち着かない。
はたして原因は一体──?
観月が戦いを挑もうと勇んで飛び出して
ぶるぶる震えて帰ってくることになった
あの冬将軍のせい?
このところごきげんなさくらが
きらいなおかずを見つけてごはんを残したりなどせず
気がつけば泣き虫が吹き飛んでしまっているせい?
本当はわかっている。
羽の生えたように
マリーが家に飛び帰った
あのときでさえも──
家中を包んでいた
ここ数日の大騒ぎが
すっかり消えて
戦い疲れた乙女たちの
安らかな寝息に変わっていること。
本当の戦いは
これからだというのに!
いいわ。
お眠りなさい。
ゆっくり英気を養って
備えるのは──
それはあなたが
今までに迎えたことがないかもしれない経験。
そして、長い一生でもしかしたら
これが最後になるかもしれないほど
勇気と正直と
素直な気持ちだけを──
友にして向かう戦い。
覚えておいて。
あなたが向かう先でいつも
助けとなるのは──
あなた自身が積み重ね、
思いのままに駆け抜けてきた
あの毎日だということを。
まあ、そんなふうな思い付きを
鏡に向かって語りかけながら
マリーは今夜眠るの。
明日は好きな人に
自分がどれだけ大好きなのか──
ちゃんと伝えられるといいな。
わからないかもしれないけど
この愛は歴史で一番で
きっと今も──
世界一なのよ!
ちゃんとそういう大事なこと、言えるかしら?
そわそわして──
お気に入りのベッドも今日だけは
いつもの素敵な夢を約束してはくれない気がするの!