『郷愁の虜』
宇宙はどこまでも広く
そこで体験する出会いは全て奇跡で──
一度離れ離れとなった愛しさと
再び会えるというのなら
小さく儚い人間はときどき運命を信じ、
奇跡という言葉の本当の意味を理解することになる。
曇り空の下、
マフラーに顔を埋めるようにして
通り過ぎるだけのはずだった
アンティークショップの店先に
かつて憧れたぬいぐるみを見つけたとき
人がどのような感情を体験するか知っておくことは
これからの私の思索の楽しみに
ひとかけらの刺激を加えることになるだろう。
昔、子供の頃に出会ったぬいぐるみは
当時はとても手が出ない値段だったが
今の私にとっては──
子供のおこづかいが増えるよりも
価値あるものが相応に認められるほうが遥かに早い
残酷な事実を知らせるしるべとなる。
よく覚えているんだ──
幼い私が冷たいショーウインドウに顔をくっつけて
いつまでも飽きることなく眺めているのを
困った顔で迎えに来た海晴姉が
ずいぶん長い時間そばにいて
そうしているのを許してくれて──
暗くなった道を二人で手をつないで歩いた日々。
それはお店から愛しい姿が消えるまでの
短い期間だけ刻み込まれた思い出。
だけど海晴姉は
そんなことはぜんぜん覚えていないという。
本当にあったのか、とまで不思議そうにしている。
これは海晴姉が照れてごまかそうとしているのか
それとも私が思い出を美化しているのか、どちらなんだろうな?
今日ももうしばらく見ていたかったけれど
あの頃よりも家の明かりが恋しい
寒い季節にあたったような気がするし──
それに今日は二人がかりの息のあったコンビネーションで
星花と夕凪がなだめすかして連れ帰ってきてくれたからな。
我が家に良い姉妹タッグが生まれたことを喜び、
かつては一人だけだったお迎えが
私も大きくなったことで二人必要になったと
誇りに思うようにしてみたい。
誰もが少しは成長するみたいに
いつかは──
追いつくかもしれないものな。
次に会うのは私がまたもう一回り
大人になってから。
またそばにいてほしい人が
変わらずそこにいると確認するような日が来て──
運命とはそういうものだと
思いたいのだ。