海晴

『荒馬』
たっだいまー!
そして間髪をいれず
おかえりー!
家に帰るまでが旅だと世間の人はよく言うけれど
その意味では私たち家族の大騒ぎだった旅も
とりあえずここまで。
ただし、大家族の旅行を重ねている
私たちとしては──
電車移動の途中なんかにおみやげのおにぎりで夕食を済ませ
家に帰ってから荷物を解く暇もなく
小腹がすいたところへ軽く入れておきたいし
疲れた子もさっぱりするお風呂に入れてあげなきゃだし
帰り道で眠ってしまった子はベッドに運んだりで
いそがしいったらない!
おまけに明日からみんなのそれぞれの日常の始まり。
早起きした朝に出会うのは
空気が澄んださわやかな白い朝のまぶしさか
頭から丸呑みしたまま外に出してくれないお布団のラスボス感か
焼けるパンの匂いが追い立てるジャムかチョコレートの選択か
疲れを残していたらとても立ち向かえない相手ばかりね。
本当の旅の終わりは
軽く寝る前の体操をしてもいいし温かい飲み物でもいい、
それぞれが明日に向けて
旅を言い訳にしないコンディション作りに
まあとりあえずベストは尽くしたと言えるようになるまで。
明日の朝のことは
その時になってから!
それにしても
すごかったわね──
よく晴れたスポーツ日和の空の下を
最後まで力を尽くして走りぬく人たちの真剣な顔、
それにも負けないくらい獅子奮迅の働きでケーキを作り続ける
春風ちゃんたちお手伝い調理班、
その指示に従い休む暇もなく
ラソンよりハードな汗を流していたかもしれない力仕事班と
最高の笑顔でがんばる接客班。
本職のお店の人とくらべて
私たちはまだ足を引っ張らないように努力するしかなくて
ぜんぜんプロフェッショナルのお仕事はできなかったかもしれないけれど
うんうん、よくがんばった。
お姉ちゃんはちゃーんと全部見ていたからね。
もちろん手を止めずに自分の仕事もしながらね!
今日はきれいに澄んだ青空の下と
クリスマスの軽快な音楽が流れる場所と
たぶんほかにもいろいろな表舞台や裏方で
宝石のようにキラキラ汗を流す
全力で挑戦する人たちの姿。
自分の限界に挑むとき
本当の敵は自分の中にいると知る──
そして貴重な経験を胸に。
ついでにちょっとした報酬の件にも思いを馳せながら
私たちが戻ってきたのは
楽しいときも悲しいときも
みんなといつもいる場所。
家族の笑顔が帰ってくる私たちの一番大切な
すごくいいところ。
はあー、やっぱり家は落ち着くわね。
さて最後に今回のお仕事で
みんなが手にする報酬だけど
春風ちゃんたちと調理をするために
それぞれのお店の人や
わざわざ時間を作っておじさまのホテルの人まで顔を出してくれて
すばらしいクリスマスメニューを学んだ経験と知識が
かけがえのない宝物、いちばんのおみやげ!
今年のクリスマス本番が楽しみだね!
というおじさまの伝言を私が伝えたら
みんながぎゃふんとなったというのが今回のオチ。
基本に忠実でとことんベタって
とっても大事なことね。
いえ、実は──
何か必要なことがあったらと
今は内緒という約束で受け取ってはいるの。
まあまあの金額のおこづかい──
みんなの最初の期待に応えられるくらい。
だからどこかで、何かの形で
みんなの努力がすばらしかったと認めてくれる人がいることを
教えてあげる機会を作りたいんだけど
お金のことだからよく考えて慎重にというアドバイスと一緒に
受け取ったものだから。
もう少し年長組で秘密の家族会議をしておきたいと思うの。
キミと会う口実を作れるのは理由の一つかもしれないけど──
年上のみんなだけでクリスマスのお楽しみを考える時間が増えるかもって
楽しみもあるし。
そのへんはゆっくり考えていけたらいいね。
それじゃ、今日はお疲れ様。
どうかゆっくり休んで。
それがキミのこの旅の最後のお仕事で、
私のいつも通りのささやかな祈り。
明日からも素敵な思い出をたくさんつくっていこうね。