歓喜の日々』
街はだんだんクリスマスムードに染まりつつある。
まだ11月の間は
駅の入り口のクリスマスイルミネーションや
デパートのエントランスに飾られるツリー、
ついでにツリーの間と間にあらわれた
蛍姉さまがよく足を運ぶ年末特設お楽しみ福引コーナーなどが
そこそこ存在感を放つくらいだけど
時はついに一年の終わり、
12月を迎えようとしている。
私、知っているの。
どこからともなく
ハンドベルやオルゴールのクリスマスミュージックに
ジャズの演奏やゴスペルの歌声が聞こえるようになると
その時私は
カレンダーの最後の一枚をめくったと思い出すこと、
今年もあとわずかだって気分がふくらんでくること、
人目を気にせず浮かれる姿がみっともないのはわかっているのに
どうしても高揚感を抑えるのが大変だと知ること──
そしてクリスマス当日を過ぎたとたん
街はいっぺんにお正月を待つ準備にかわって
狐につままれたような
人間の商魂たくましさを感じるような
なんともいえない気分になることを
これまでの経験ですでに繰り返している。
だからたぶん今年もそうなるのでしょうね。
できるだけ平気なふりで
クリスマスを迎えようとしながら
どこか落ち着かないそぶり──
すぐに見抜かれるの。
その証拠になにげなく立ち寄った駅に流れる音楽のせいで
なぜかおみやげに持ち帰ったシュトーレン
小さな妹たちと分けたら
たちまちなくなってしまうという判断が
できなくなっているわ。
クリスマスは財布の紐も緩む季節──危険だわ。
これではクリスマスの鈴の音に誘われて
臨時列車に飛び乗るなんて
懐事情でとうていかなわない夢だし
イベントで展示されるミニチュアの鉄道が
雪の積もる外国の景色のジオラマだとか
ジンジャーブレッドハウスをくぐって走り抜けるかわいらしい姿を
持ち帰るみたいに自分の部屋に広げるなんてことも
たとえ何年おこづかいを貯めようとも到底できはしない。
なんとなく心細い財布を覗いていたら
蛍姉様はこれも気になっていたという
フリーマーケットのチラシを持ってきてくれたけど
部屋の中にあるのは大事なものばかりでお店に出せるものはないし
だいたいよく読むと
参加申し込み締め切りが12月になっているのは
2月に開催される分であって
これだとクリスマスの財政を助けるにはちょっと難しい。
蛍姉様も肝心なところで抜けているのよ──は、ちょっとひどいか、
年末は誰でも忙しいから寛容な心を持つのも大切なことなのよ。
というわけで刺激されがちな物欲と戦うのも
この季節には重要なイベント。
もちろん毎年経験している私だから。
今年は多少は抵抗できるといいわね。
あら?
海晴姉様が呼んでいるみたい。
なにか──
大磯のおじ様がみんなにお願いがあるみたいな話だけど──
まあ、何の話にしても
クリスマスの出費問題は解決できるとは思えないので
それは今後の課題──
クリスマスを楽しむ私たちにとって永遠の課題になる可能性は
考えないほうがいいかもしれないわね。