『暗黒』
人が生まれる前から
夜は暗く──
人が消え大地が塵に帰った後もなお
燃え上がる星の祝福がなければ
宇宙はいつまでも闇に包まれたまま。
太陽の炎がいつか消え去る遠い未来を思わせて
天の川を遠く見つめ浮かぶ球体の
光が当たらない面は──
寂しく心細い暗闇の奥底にある。
この闇に潜み
一時の命を楽しむものたちは
朝の光が届くのをじっと待ち望み
あるいは暗がりに紛れて
モデルが頭に載せた本を落とさないように歩く
練習があると聞いたことを唐突に思い出して
今ならばと誰にも見られないように真似して見せたり
もしくは楽しんでいた本を優しく撫でて
愛情を込めてページをめくっていると
不意打ちで書かれていた突っ込みどころに
口に含んだ飲み物を噴出す瞬間を──
誰にも見られなかった夜の帳に感謝し
一応部屋の戸締りと廊下の様子確認してみたりする。
夜が私たちに与えるのは
目にしていた全てが生まれも育ちも問わず
たちまち見えなくなる恐怖──
同時にもたらすのは
人の覗き込まない暗がりに抱かれる心地よさ。
怖れも安心感も、
もしかすると悲しみも喜びも
光の反射を遮られるという
ひとつの現象がもたらす一枚のコイン、
めまぐるしく表と裏を入れ替えるその回転に過ぎないと
一日という概念が疲れた体をそっと横にするとき
私たちはいつも知ることになる。
夜ははしゃいだ時間が迎える寂しい終わり。
夜は優しい暖かさへ潜り込んで目を閉じる安息の始まり──
まあ明るいうちも横になって休んでも別にかまわないが。
しかし誰しも例外はなく
夜はトイレに起きることもある──
そしてたまたまその日に
読んでいた本の内容や
見ていたテレビ番組の過激さの度合いによっては
闇の安らぎよりも漠然とした不安のほうがやや上回ることは
往々にしてありえるので
そういうときは人類に行使を許された
自由と行動という選択肢に頼っていい。
部屋の電気をつけておくのは
あらゆる怖がりの権利なのだ。
たとえどれほどに止めようとも──
どんなに怒られようとも
私に強い気持ちがある限り
自分の意思を貫くことをやめてはならないと
夜はたまにそんな大事なようなことを教えてくれるような気がするような
まあそういうようなこともあるんじゃないかな。