観月

『物語の始まり』
日が落ちるのが早くなり
夜が長くなってくると
家族とお部屋の中にいる時間が増えるので──
すごろくやトランプ、
囲碁に将棋も
そろそろ飽きてきた頃じゃ。
みんなで図書館に行ったり
地下室の本棚を探したりして
読書の秋を満喫するのも
過ごし方の一つ。
みんなで本を探す日が増えれば
本屋さんにも連れて行ってもらえるし
一人一冊までなら買ってもらえることもある。
うれしいことじゃの。
小さい子たちが好きなのは
おはなしの中でたくさんのおにぎりを食べる本や
きょうだいとけんかしたり仲直りをする本や
言葉を話す猫やライオンの本など。
身近にありそうなおはなしが
よいらしいので──
近くにいるのにあんまり気にされない
この世の裏にあるものたちを
くわしく説明した本などは
あまり人気がない。
本屋さんで海晴姉じゃのところに持っていって
わらわはこの本!
この本がいい!
妖怪の図鑑なのじゃ!
ためになる!
と、ぴょんぴょん跳んで見せてあげても
ええっ!
こわい!
と、のけぞりかえるばかり。
大事なことがたくさん書いてあるのに。
わらわがよく読んで
みんなに教えてあげねばならぬ。
なにしろ子供なので
記憶力もいい。
はりきって覚えるのじゃ!
こわくて楽しいハロウィンの日が終わって
おばけたちはあるべき場所へ帰っていった。
やれやれこれで一安心と
姉じゃたちも子供たちもすっかり油断しているが
去って行くものどもが
しばらく戻ってこないということは
もしもあやかしに魅入られたものがいたなら
ふらふらどこかへ消えてしまって──
そのままわからなくなり
帰ってくるのが遅くなったとしても不思議はない。
見知らぬ何かに手を引かれて
戻れるところと戻れぬ向こうの境い目をただようなら
待っている人がいる場所をうまく思い出せないといけない。
同じ家に住むきょうだいや
見守ってくれるご先祖様や
昔遊んだ懐かしいものたちがいる場所を
信じることができるなら──
そこがいつも帰るべき場所。
楽しいことも
毎日のおふとんの匂いも
好き嫌いしないで食べられるようになった献立も
大事に覚えておかなければ
足音もなく近づいてくる闇が
隣に立っていたときに──
ちょっと困ってしまうから。
迷わず帰れるように
いつでもおうちで兄じゃと遊んでもらっておく。
いつの世も変わらぬ
大事なことじゃ。
みんな、忘れぬようにな。