亞里亞BDSS

『バーニングサン』
今年も亞里亞の誕生日がやって来た。
亞里亞の誕生日プレゼントだが、今回は情報戦に頼ることにした。
斥候を送り、欲しいものをこっそり探ってくるという作戦を立てたのだ。
「というわけで報告を頼むぞ四葉
「はい兄チャマ。亞里亞ちゃんの欲しいものとはズバリなんと! 名探偵変身セットだったの!」
「そうかなるほど! なんでだよ!」
「きっと間近で四葉の勇姿を見ていてあこがれたのデスね」
「まあそういうこともあるのかなあ?」
「うんうん、欲しいものをあげるのがいちばんなのデス。ついでに四葉のお誕生日に欲しいものは名探偵変身セットなのでよろしくね兄チャマ!」
「やっぱり四葉が欲しいものじゃねえか。というか四葉の欲しいものの傾向から毎年そういう感じのプレゼントをもらっているような気がするけどいいのか?」
「いいものは毎年もらっても困らないデス」
「まあ過去の続き物とかじゃないしギャグSSだから細かいことはいいか」
「きっと可憐ちゃんだって大好きなピアノを毎年もらって喜んでいるはずだよネ」
「いやピアノはあげたことないよ。学生の予算の範囲を超えているどころじゃないよ。しかもピアノなんて大きいものを毎年もらってどこに置くんだよ。誰だって困るよ」
「春歌ちゃんなら大好きな日本の国を毎年もらえたら大喜びデス」
四葉があんまり物を考えないで話しているのがわかったから特に気にしないようにしよう、いやわかっていたことだけど。ともかくみんなの欲しいものを参考にするのは良さそうだ。よし! 今回は妹みんなに欲しいものを聞いて歩くというほのぼのSSで最後に亞里亞のエピソードをいい話にしてオチをつける感じにしよう!」
「わーい! 兄チャマすごーい! 四葉もそれがいいと思う!」
「僕の発言も適当だけど四葉のツッコミなし加減もなかなかすごいな!」
「じゃあ四葉は兄チャマについていってみんなを調査する役をする!」
「よし行こう。まずは可憐からかな」
「兄チャマ! 四葉の調査によると可憐ちゃんの家はこっちデス!」
「知ってるよ!?」
「ほらー早く来ないと置いていっちゃうデスよー、おーいおーい」
「えっ? このSSって四葉がそういうはしゃぐ方向なの?」
「でもでも、四葉の調査によると兄ちゃまは四葉に置いていかれたりすることなんてないマッスルの持ち主だから大丈夫!」
「そうかな……まあがんばるよ」
「というわけで可憐ちゃんのお宅に到着!」
「あっお兄ちゃん! 可憐、お兄ちゃんのことを考えていたらお兄ちゃんに会えたよ」
 可憐はだいたいいつもお兄ちゃんのことを考えているという二次創作設定があるからな。それでも原作の可憐のお兄ちゃん愛にはとうていかなわないのだ。
「あのね実は可憐ちゃん、かくかくしかじか」
 四葉の説明も日本に慣れてきた感じがするなあ。
「ええっ! 可憐の欲しいものを、亞里亞ちゃんのお誕生日の参考にするんですか!? 可憐はお兄ちゃんと一緒にいる時間が欲しいです」
「純粋でいい妹だなあ。四葉も参考にするんだぞ」
「はい、兄チャマ! 四葉は兄チャマと名探偵変身セットで遊ぶ時間が欲しいデス!」
 四葉もブレないな。
 でもいい話を聞けたけどプレゼントの具体的な参考にするには難しい。他のみんなにも聞いてみよう。
「ありがとう可憐。今度また可憐と過ごす時間を用意しておくよ。じゃあまたね」
「はい、お兄ちゃん。可憐はもうお兄ちゃんや四葉ちゃんと一緒に行く支度ができました」
 ついてくる気だこの子……
「こっちがプレゼントしなくても欲しいものをもぎ取りに来たな」
「なるほど、可憐ちゃんのこういうところを参考にするのデスね」
「そうなのだろうか……」
「もちろんお誕生日プレゼントはまた別で欲しいです」
「こういうところを参考にするデスね」
「うーん……まあいいや、次回とかにはあまり引き継がないギャグSS! どうせ四葉もすぐ忘れるし」
「うん!」
「いい返事!? 次は花穂のところだな」
「花穂ちゃーん、四葉デス」
「ええっ、花穂の欲しいものをお兄ちゃまに話しちゃうの!? でもお兄ちゃまの力になれるならがんばる! あのね、花穂がお誕生日に欲しいものは、お兄ちゃまと一緒に過ごす時間なの!」
四葉ちゃん、参考にするといいですよ」
「はいデス!」
「あっ、でもお誕生日じゃないとお兄ちゃまに会えないなんてさみしいよ! いくら会いたいからってこっちから押しかけて迷惑をかけるわけにはいかないし……」
「可憐、聞いておくといい話だぞ」
「そうですねお兄ちゃん、勇気のない花穂ちゃんも誘って一緒に行くことにしましょう!」
「そっちかよ」
「ありがとう可憐ちゃん! でも花穂はチアも宿題もあるの」
「もちろん可憐にも宿題もピアノもあります。出かけていたらピアノの練習はできなくなるかもしれない……でもなんとかなるものです」
 なるかなあ。
「なんとかならなかったらそのときはそのときです」
 可憐の割り切り方が男前だ……
「それに花穂ちゃん、私たちは何のためにピアノやチアをするのかしら……お兄ちゃんに聞いて欲しいから、見てもらいたいから、お兄ちゃんを元気にしたいからでしょう? だからお兄ちゃんといる時間を一番大事にするのがいいの。自分に素直になって……」
「可憐ちゃん……わかった! 花穂、宿題はあとでやる!」
 大変なことになった。
「花穂の宿題は後で見てあげるから、一緒にやろうね」
「お、お兄ちゃま! ありがとう!」
「お兄ちゃん! 可憐までいいの!?」
「可憐は自分でやろう」
「兄チャマ!」
四葉も心配だから来るように……」
「あれ!? 兄チャマが可憐ちゃんたちを見るのとはちょっと違う感じのやさしい目デス!?」
 じゃあお供の妹(?)が三人になったところで次は衛だな。
「ボクの欲しいもの? あにぃと走ったり競争したりする時間だよ!」
「そうかそうか。よし行くか!」
「うん!」
 またお供が増えた。
「フフ……これで五人になったね……いったいどこまで増えるのだろう……」
「千影いつからいたの?」
「それはもちろん……二人が二度と離れられないと消えない傷跡のように運命に刻まれたあの瞬間から……永遠に……」
「千影は難しいことを言うなあ。まあいいや、ついてこい!」
「もちろんだよ……ついて来るなと言っても……本当は……兄くんに断る手段などないのだから」
「まあついて来てもいいけど宿題は心配だという流れだなあ。つまり亞里亞と一緒に宿題をするオチになりそうだな。衛は大丈夫?」
「うん! ボク、ギャグSSだと頭も筋肉になることが多いから先にやっておいたよ!」
「ごめん……かわいいボーイッシュキャラって難しいよね、というか衛はボーイッシュとも少し違う今でも似た例が少ないタイプだよね。シスプリはみんなそうだな」
「ああ……そうだね……」
「時代がとうとう追いつきかけている子がいる」
「私も宿題は……そう……はるか懐かしいあの……前世に終わらせたよ……」
 どういうことだろう。今日出た宿題はやってないのを華麗にごまかそうとしたつもりなのだろうか。しかし千影なら来世に出る宿題くらいは予知しそうだな。まあ面倒くさいから深く考えるのはやめよう。
「さて次は咲耶か……早くもラスボスが現れたな」
 これまでのみんなを大きく上回る一緒にいたい旋風が吹き荒れるのは確実だ。
 ほら、他の子と違って向こうから走ってくるパワフルな行動力の塊。
 あのシルエットは間違いない。
「おにいたまー!」
「あれっ!? 雛子だ!?」
「おそらく……ラスボスと戦う前に……難易度の低い子で経験値を積み重ねておくようにという運命……」
「雛子はまた別の意味で難易度が高いかも知れないぞ、遊んでへとへとになっても離してくれないみたいな。まあいいや雛子、お菓子食べる?」
「わーい! おにいたま大好き!」
「なるほどお菓子でいいのか。これからは妹で困ったらお菓子をあげることにしよう」
「オニーチャンのバカー!」
「!?」
 というわけでお供が六人……いや七女……じゃなくて七人……いややっぱり六人になった……と思う……
 じゃあ次は鞠絵がついて来て、最後には亞里亞がついて来るオチに向かって出発進行。いや鞠絵は無理に連れ出すと良くないな。
 残念だけど療養所にいてもらって……あれ、療養所? 遠くの? あれ!? 今日会えないな!? しまった……それじゃ電話で話を聞くのがいいかな。
 ひとりでびっくりしたあまり、向こうからパワフルに駆けて来る鞠絵の姿が見える。声まで聞こえて……って、あれ鞠絵だよ!
亞里亞ちゃんのお誕生日パーティーに誘われて、体の調子でどうなるかわからなかったのですが今日はお医者様も外出を許可してくださって」
「そうか、よかった。また鞠絵が勝手に外出してしまったり千影がくれた謎の薬で一時的に異様に元気になったり白雪が作った謎の料理で一時的に異様に元気になったりしたんじゃなくてよかったよ」
 鈴凛は向こうの木の影で春歌と一緒に出番をスタンバイしているのが見えるから聞こえるようなことは言わないでおこう。なんかかっこいい現れ方がどうとか相談してるというか春歌が困らせてるのが聞こえるし。がんばって鈴凛、僕もこっちが終わったら助けに行くから。
「欲しいものですか? そうですね。元気な体と言いたいところですけれど……それは自分でがんばって治していくものなので、わたくしが元気になったとき、いつでも会いに行けるように、兄上様が健康でいてくれることが一番の願いです」
「ほら可憐」
「うん! 可憐、お兄ちゃんを健康にしたいから肩を揉んだりできるようにいつでも一緒にいます! 栄養たっぷりのごはんも作ります!」
「可憐はいつも隙あらば嫁になろうとしてくる」
 向こうの木の影で声が聞こえたらしい春歌がぎくっぎくっとかポッとかなったりしているけどまあいいや。
「そうだ、白雪も誕生日パーティーに誘われて、亞里亞の家でごちそうの準備をしているんだっけ。よし鞠絵、途中で何かあったらいけないから亞里亞の家まで送るよ」
「兄上様、ありがとうございます……でも鞠絵はもう本当に大丈夫です」
「病気じゃなくて女の子だから送るんだよという……しまった、べびプリ本が近くにないと元ネタを参照してかっこいい台詞が言えない。これだからギャグ小説の主人公は……というわけで普通に行こう、鞠絵
「はい、よくわかりませんがそうしましょう」
四葉は手をつないで歌を歌いながら行きたいな」
「春歌は籠を用意して兄君さまをお送りしてさしあげたいですわ」
 相変わらず春歌の日本の間違い方はカオスだね。まあ二次創作だからこうなっただけで、公式ならもっと……もっとかわいいのに表現する言葉が存在しない何ものかだな……まだ時代は春歌に追いついていないらしい。
 というかかっこいい現れ方を相談していたのにもう亞里亞の家へ向かうとなったので普通に出てきた。
 準備をしていた鈴凛はあわててメカ鈴凛を木の上に登らせて、そしてメカ鈴凛は口からガーッと桜吹雪を撒き散らして春歌の雅な登場を演出している。もう春歌はこっちにいるけど……あと、その桜の花びらの撒き方はもうちょっとこう他にあるだろ。
 誰も現れないかっこいい出番の準備の向こうで、みんなの注目を浴びていることに鈴凛が気づいて、もしかして自分が桜の散る中でかっこよく出て行かないとこれは良くないんじゃないかとそわそわしているのがわかる。
 それはそれで面白いけど、あと咲耶もいるから出てきたりとかは……なんてきょろきょろすると
「兄くん……気がついてしまったようだね……兄くん、いいえお兄様。この姿は千影ちゃんにお願いをしていつでもお兄様の近くにいられるような力をもらい変化した姿。その正体は……」
 と、星色ガールズドロップから出てくるポプ子みたいに「私だよ!」って咲耶が出てきた。
「ふふ、ついにラスボスが登場してしまったわね。さあお兄様! 今日こそ愛の運命に決着のときよ!」
 えーと、まあいいや。
「しかしこの登場の仕方ではあんまり鈴凛の桜吹雪が活用できないな」
「えー……やっぱりそうだよねアニキ」
 鈴凛がまだぐずぐずしている。
 と、そこへ。
「兄やー!」
 あんまり遅くなったのでついに亞里亞のほうから迎えに登場してきた。
 大変だ! 亞里亞がかわいすぎて後光を放ってまぶしい!
 そんなふうにキャッキャウフフしていたら鈴凛もなんだかいろいろどうでも良くなったみたいにかっこよくやって来た。そうだ亞里亞もあのかっこいい登場の仕方をしてもいいんじゃないか、ということで結局みんなで順番に並んでかっこよく再登場して遊んだ。終わった後でじいやさんが黙々と掃除をしてくれている……ありがとうございます……
「じゃあみんな揃ったところで、あとは白雪が待っている亞里亞の家に行こうか」
 まだオチが決まっていないけど、じゃなかった、プレゼントが決まっていないけどなんとかなるだろう。
「フフ……そうだね……」
「あっ本物の千影だ。そうか、咲耶に隠れて近づく力を教えたということは、千影もそういう力を持っているということなのか」
「その通り……あの日からいつまでも離れないままで……しかし今は亞里亞ちゃんが早く行きたくて裾をひっぱるので……この話は後にしよう……」
 亞里亞に妙に弱いところが本物の千影っぽいな。
 そして咲耶はたぶんもう魔力が解けているっぽいのでこそこそ動いて近づかなくても大丈夫だよ。雛子と亞里亞が真似をしようとするからやめようね。四葉は特に関係なく変な動きをしてうまく隠れたみたいな顔をしているが。というか姿を消して隠れている間はそんな動きをしていたの。もしかして千影も隠れているときはそんな動きをしながら近くにいるのだろうか……いや、考えるのはやめよう。
「そうだ、最初から亞里亞に聞けばよかったな。誕生日プレゼントに欲しいものはある?」
亞里亞は兄やがいてくれたらいいの。兄やが欲しいです」
 みんなの言ってるのと大体同じかな……じゃあ、妹たちの意見もちゃんと参考になっていたんだな。
「アニキ、私の欲しいものはねー」
「おこづかいはまた後でね」
「そうだけど! いや本当に欲しいのはお金じゃなくて……」
「じゃあメカアニキを作るデータとかかな。また後でね」
「うれしいけど!? いやなんか……」
 まあわかっていてからかっているんだが。
 どうやら今回はオチがないのがオチというほのぼのとしたオチになりそうだな。めでたしめでたし。
「兄や様、亞里亞様の希望は以前から聞いていましたので私たちも考えまして、いろいろな案があったのですが、最終的にはママン様が手を回して、兄や様が学校の代わりに亞里亞様のところへ通える法律を作ることになりました」
 ふつうに日本をプレゼントしちゃった……序盤の伏線がここで生きるとは。
「年に一日、この日だけという法律なのでご安心ください」
「それって来年から毎年亞里亞のところに行くということでは……いやそれはそれでうれしいんだけど……まあギャグSSだからきっと来年にはなかったことになっているよね」
 たぶん。
 という感じで軽めにオチもついたところで亞里亞の家に到着だ。
「にいさまー! にいさまー! 姫、なかなかにいさまに会えなくって待ちどおしすぎたせいでお菓子で亞里亞ちゃんの家をもうひとつ作ってしまいましたの!」
 まだオチがあった。来年は早めに白雪の出番を用意しておこう。
「このままにいさまと一緒にいる時間が少ないと、姫はさみしくてさみしくて、さみしい気持ちをぶつけてお菓子で日本をもうひとつ作るくらいできそうな気がしてきましたの」
 天丼でもう一回オチがあった。