『行方』
さくらの好きだった人形は
どうもどこかへ行ってしまったらしい。
まあ、仕方ないな。
私たちの家族はきょうだいがたくさん。
みんなで使う部屋はそんなに広くないから
がんばって掃除や片づけをしたって
どうしても──
ものをなくしてしまうこともある。
子供の頃に遊んだおもちゃも
いつまでもとっておけないからな。
手放したくない大事なものは厳選しないといけない。
大家族の宿命だ。
子供の頃からサッカーや野球、運動会なんかで
みんながもらってくる
賞状、トロフィー、メダルも
いつかは見えないところに消えてしまう。
まあお弁当みたいなものだと思うことにする。
楽しい思い出が残っていればいいんだ。
一生懸命に駆け抜けた記憶が
しばらくの間──
やんちゃな遊びで跳ね回る子供たちの力になるんだ。
そのためなら──私たちにとって
不器用でもお弁当つくりを手伝わないといけない理由になる。
メダルをもらって帰ってくること一緒に喜ぶ時間が
かけがえのないものになる──
でも、お人形は残念だったな。
さくらと離れて寂しくしていないかなと聞いてみたけど
お兄ちゃんの人形が一緒だから大丈夫なんだって。
お兄ちゃんっていうのは
いつでもどんなおうちでも
頼もしくて、誰も知らないことを何でも知っていて
いつでも遊んでくれてやさしくて
大好きな大好きな──
特別な人。
そんなお兄ちゃんが一緒にいてくれるから
なんでもできる──
ような気がしてくる。
そういうものらしい。
さくらが言うんだから間違いないんだろうな。
そうなのか──
私にはお兄ちゃんがいないからよくわからないな。
いるのは同じ年のきょうだい。
春風が時々しているみたいに
妹ごっこをするのも苦手だし
いつも優しくて頼りがいがあって
誰よりも大好きな
お兄ちゃんがいるのとどっちがいいものなのか
確かめることはいつまでもできないまま。
大好きって正面からいう機会があんまりなくたって
これだっていいものなんだとさくらにわかってもらうのも
なかなか困難な挑戦に思えてくる。
さくらが納得するように伝える難しいことが
いつかは私にもできるようになるのかな。
いや──本当はそれよりも先に伝える相手が──
ううん、なんでもない。
まあ私が頭を使って苦手な考え事をしたところで何の役にも立たない。
そのうちうまくいくか、たぶん気長に
いつも二人でいるときは私のほうが
ただそうできたらいいなって思いながら過ごすだけ。