『名残』
この世界が終末を迎えたと思える風と雨がとどろいた台風も
夜のうちに駆け足で過ぎ去り
私たちの家族はどうやらみんな揃って無事に
降り注ぐ恐怖の中、危機を乗り越えられたようだ。
星のない夜は果てが見えないほどに長く、朝を忘れるほどに暗く
眠れない時間を過ごした子も多いのか
重たそうなまぶたと戦う健気な姿がテーブルのそこかしこにある
どうもあまりフレッシュな感じでない朝食の景色が
世界の終わりの翌朝を迎えた我が家の様子だ。
昨日は氷柱が日記を届けるはずなのに残念だったな。
雨と風がどんな具合か気になると
ほんのわずかに開いた窓のすきまがいたずらをして──
書きかけの日記帳のページが舞い上がったところに
タイミングよく停電も重なり。
明かりが元に戻ったときには
日記に書く予定のメモがすっかりなくなっていたということだ。
翼が生えたように逃げるものなのだな──
愛する者に伝えたいたった一日の出来事と言うのは。
専用の鳥籠と──何かつないでおくエサが必要になるのかもしれない。
それにしても
私たちの小さくつつましい暮らしには何事も悪い影響がなく済んでよかったな。
これで心置きなく、近づいてくる小さい秋の足跡を探すことに専念できるというわけだ。
ふむ──庭の落ち葉はこの台風に飛ばされた分を集めても
まだまだ焼き芋に使うには足りない。
そもそも枯葉がまだ少ないからな──
小さい秋か。
よく聞く無邪気な歌に似合わず辛抱が必要となる。
急に夏のような暑さは戻ってくるし
また台風が近づいているともいう。
あわててタンスの奥から出したちぐはぐな夏服をひっかけて
何も気にせず庭を走っていく子供たちのほうが
私よりもずっと季節を楽しむことにすぐれて
季節の匂いをかぎ分ける才能があるのだろう。
きっと私たちより早く食欲の秋をどこかから見つけ出してくるぞ。
小さな子に教わることはいつも多いのだな──
そう、教わるといえば
風に飛ばされてなくなってしまった氷柱の日記は
占いの得意なユキの見立てによれば
すぐ近く──ほんの隣のような近くで見つかるとのことだ。
まるで肩が触れ合うくらいのお隣の出来事らしい。
しかもそれは、少し昔の思い出と関係があって
決して古すぎず一番近くの記憶がある場所──と言っていた。
氷柱の日記は私が替わりになることも出来ないいいものだ。
そんないいものが
案外近くで見つかるという。
いいことがたくさんあると──
頼りなさそうな指先につかんだかわいらしいカードと
小さな手のひらで占ってもらわなければわからないのだから
私の過ごす日は今日も──
日ごとに傾く日差しがひととき懐かしむような暑さの秋の日も変わらず
どこになにがあるかわからない混沌の
未知なる刺激にあふれてると学ぶのだ。