『いつもの場所』
5月の連休が終わって
小学校で過ごす小雨が
放課後に向かう場所。
やっぱり楽しかったお休みと変わらず
図書館の一隅は
小雨が戻ってくるのを知っていたように
椅子を空けていました。
夕日の差す明るい窓の近くは
足音もなく、おしゃべりにやってくる子も少なく
静かだからこそ
どこからか元気な小学生の声がいつも聞こえる
不思議と気持ちも明るくなれる場所。
大きな声が届くと
一緒に歌うみたいに自然と出てくる小さな自分のつぶやきに気がつく。
楽しくなってくるものです。
さらにそのあたりから
ちょっと奥に引っ込んだ場所の机は
入り口から見て影になるから見つけにくいのか
それとも暗すぎるあまり小雨くらいしか落ち着く子がいないのか
理由はわからないけれど
おそらく子供たちが好んで座りたい位置ではないらしい……
一年生の頃にすっかり腰を落ち着けてから
守ろうとするみたいにずっと同じ椅子ばかりにいたので
来年になって小雨が卒業した後はどうなってしまうのか
心配です……
小雨を今まで見ていてくれた椅子は
このまま小学校がいつかなくなってしまうまで
誰にも気付かれないまま
ほこりをかぶってしまうのでしょうか。
でも、お掃除当番の子供たちがいるからほこりはないと思うけど
いい場所を見つけたのに
忘れられてしまうのかな……と考えてしまいます。
それとも小雨が気持ちの落ち着く場所から離れたくなくて
勝手に相手のことを心配しているだけなのかもしれない。
いつもの場所は
やがて──
小雨がいなくなる場所。
ところがこの前の何日か
重たい灰色の雲の下でくもりや雨が続いたために
図書館の利用者が!
どっと増えてきたの。
よく光をまねく窓から重たく鈍い日差しが入ってくるようになったかわりに
窓の向こうで聞こえていたはずの
男の子や女の子たちのにぎやかな話し声が
書棚の間の広い空間をすっかり満たしている。
気がつくと、遅れてやって来た小雨が目を向けた先に
小さな女の子がちょこんと
まだ背に合わない椅子に抱っこされるみたいにして座っている。
小雨にはもう座り慣れた椅子にずいぶん緊張した顔で──
何か声をかけてあげられたら良かったのかもしれないけど
本当に小雨の守っていた場所というわけでもなく理由もなく
特にひとことも思いつかなかったのが残念です。
こういう時にお兄ちゃんに相談できたらなと思ってしまったの。
そうしたら何かが違っていたのかも──
小雨がいつもの場所を離れるときには
お兄ちゃんと同じ学校に通っているかもしれません。
でもその頃にはお兄ちゃんに頼ってばかりいてはダメかもしれない……
明日はこのあたりは良く晴れた日になるそうです。
小雨の好きな場所はまだもう少し
ひっそり暗い影の中に
臆病な子を隠しているかもしれません。
すぐにお兄ちゃんから離れていく勇気がない子は
来年までにはもしかしたらと
欲張りなことを思って目を伏せて
たまに楽しい声に気がついたりしながら
まだもう少しここにいたいような気持ちであとしばらくを過ごします。