春風

『試行錯誤』
あ……
ああっ!?
そんな……
春風、もうだめ……
負けてしまいます。
ああ、それにしても
みんなババ抜きが強いですね!
春風も子供の頃はよく遊んだはずだけど
昔からこんなに弱かったかしら?
お姉ちゃんたちが合わせてくれたのか
それとも長い時間のせいで
すっかりやり方を忘れているのかな。
といってもババ抜きなんてあまり複雑なゲームではないし……
そうだ!
トランプは顔に出したら
だめと聞きました。
勝てそうなのか、負けが近いのか
右と左のどちらがババか──
顔を見ただけでわかるというの。
そうなの?
春風はみんなを見ても
小さな手でがんばってカードを開いて
一生懸命考えているのが
かわいい!
としか気がつかないので
右か左かわかりません……
春風はもちろん自分のことを
ラスベガスの喧騒が似合って
カードゲームに颯爽と勝利するような
人生のかっこよさを滲ませるクール系女子だとは
ぜんぜん思っていないから
ちょっと負けてあげようと思って遊んでみただけなんですけど
想像以上に弱いんです……
そればかりか
一度くらいは勝って終わりたい、
ババ抜きは結局運だから
そのうち春風でも勝てます!
そう思って続けていたら
負けて負けて負け続けて
自分が情けなくなり
少し悲しい……
人には向いていることと向いていないことがあると
かわいい妹たちも慰めてくれます。
そうですよね……
わかっています。
でも……
それでもやっぱり
一回くらいは勝ってみたい!
小さなみんなが賢くたくましく育っていると感じられるだけで
ババ抜きで負けるのもうれしいことだと思うの。
だけど一生に一度、
いつかは──
いちばん最初にカードをぜんぶ置いて
ぱーっと手のひらを広げてみたい!
今夜は切ない夢を見ながら
少し湿った枕に顔をうずめて眠ることになりそうです。