氷柱

『さくら館の惨劇』
謎が謎を呼ぶのは
春を迎えんとするわが街の
桜の並木道の噂。
そういえば私の記憶でも
あの丘の上には花が咲くような木は
なかったはずなんだけど
今日寄ってみたら確かにあったの。
ぐんと腕を伸ばす枝のあちこちには
芽吹く前の小さなふくらみ。
暖かくなったらきれいな景色になりそうね。
どこにでもいそうな花を愛する人
私たちの近くにも颯爽と現れて
ずいぶんと短期間で木を植えていったものだわ……
まあ、理屈としては
不可能ではないかもしれないけど
誰も知らないうちに、噂の一つも聞こえず
気がついたら手品のように桜並木ができていたなんて
そんなことってある?
いや、あるんだけど。
これは怪しいと思って
ちょっと学校で聞き込みをしてみたの。
手応えのある不思議を解き明かすには
決して手段を選んでなんかいられない。
氷柱はひまつぶしも兼ねて
まずは友達に話を聞くところからはじめた。
すると、なんということか
桜の咲く怪しい道について知っている子がいたの。
親戚のお姉さんの友達から聞いた話だけど……
それは戦国時代のまだ日本中に騎馬の轟きが響いていた頃。
とある山へと続く坂道には
人々を見守るお地蔵様が並んでいたの。
あたりの桜並木と調和する神秘的な眺めは
かつては箱根の山も越えて身に来る人もいたという名所だったのだけど
いつしかお地蔵様は姿を消して
桜を見に来る人もいなくなり
あたりは荒れ果てた……
今ではその辺りでは
なぜか、毎年毎年時が流れても
賽の河原とつながったかのように
大勢の子供や赤ちゃんの泣く声が聞こえるとか……
って、まさか
それはもしかして
うちじゃないの。
帰ってきてからママに確認してみたところ
桜の木があったのを
裏山のほうに植え替えただけだったわよ!
どうも急に景色が変わって不思議だったのと
子供がいっぱいいたから
無責任に話を盛ったどこかの誰かの仕業で
後からお地蔵様が付け加えられたみたいね。
というわけで、どうやら普通にあることだったわ。
桜が植えられた丘の上にもそのうち
まだ見ぬ20人きょうだいでも引っ越してくるのかもね。
……
いやいやいや……
さて、あまり解決につながる話は聞けなかったけど
しかし名探偵に必要なのは情報収集。
足を使うのも大事よ。
実はくわしい話を知っているらしい人がいるとの情報を
すでにつかんでいるのだ。
明日は帰りが少し暗くなってからになるかもしれないけど
ああ、でもそれだと
明るい時間が長くなったからといって油断せず
早く帰ってきなさいって小さい子に言ってる手前、
悪い見本になってしまいそうな気がするわね。
ま、大人にはいろいろ事情があるんだから
代わりに下僕が何とかうまいこと言っておいて。
きっと驚くような知らせを持ち帰るから
今のうちから下僕はのけぞって真実の衝撃に耐えて
ご主人様に喜びを伝える練習でもしておいたらいいわ。