『帰還』
ただいま。
子供の頃からの夢だった
あのシチュエーション──
つまらないものですが
お納めくださいというあれを
ごっこでやろうと思っていたら
玄関をくぐるなり
身包みをはがされるように
おみやげを奪い取られていった。
変わらずみんな元気で何よりだ。
友達といるのもいいものだけど
人の家でゴロゴロしてるわけにもいかないのだな。
私にそんなにダラダラする才能がないのかと
愕然としたほどだ。
いい感じのすきまを見つけて横になったとたん
洗い物や掃除を言いつけられるし
カーペットの塵を取る転がしているのがやっと。
この小さな塵に
思いを馳せているのがいいというのに。
まるで私たちの姿のように儚く──
ゆっくり眺めてからきれいにする至福。
そんなことだから掃除が進まないのだといわれても
掃除一つにも美学というものがあってもいいだろう?
やはり、家にいる時とは違って
刺激を受けたり発見もあるけれど
適当に言いくるめられない相手といるのも大変だな。
寝転がるだけでも一苦労だ。
ここなら海晴姉と氷柱から逃げていればいいとわかっているしな。
氷柱といえば──
帰ってきてからの一休みに付き合ってくれて
そのあと、蛍と一緒によくわからない交渉に来たが
今回の旅費の残りが
家族の役に立つというのなら──
あまり多くないが渡しておこう。
力になれたらいいな。
気まぐれに始まった旅だったが
バレンタインを経た混沌に
たった一人でどこまでかき回せるのかと
いつもの椅子がひとつ空になることで
さらにどれほど混沌を混ぜ込めるのかの試みといえる。
成功していたらうれしいのだがな。
チョコを受け取ってくれたのがうれしいのはわかるけど
私の大事な弟ばかりが
毎日話題の中心になっていたら
ほら、オマエも疲れてしまうこともあるだろう。
どうせ私がかまって遊ぶんだからそれでいいんだ。
それにしても
三日会わざればの言葉の通り
夕凪は新しいマホウを開発したと喜んでいて
星花は一冊本を読みきったようだし
吹雪もオマエの後を追いながらじっと見つめる視点がいつもと違う。
それに海晴姉も新しい健康体操をはじめたのがわかるぞ。
ちょっとくらいいいだろうと考えているのが一目で分かる
栄養満点のまるまる笑顔だ。
このまま風邪の心配もなく春を迎えられるといいな。
どうも変化があったのは
波紋を投げ込みたかった家の中ではなくて──
それを考えた私自身の心の中にあるようで
久しぶりの家の中は新鮮な眺めだ。
見慣れたはずの顔、
いつもくるくる変わる表情を忘れたくないと思っていたそのどれも
たった数日で今までの記憶とは変わっているようで……
一番見慣れていると思っていた
楽しみ甲斐のある弟の表情の変化も
今日はまるで飽きない眺めだ。
前からこうだったのかな?
もう少し観察しなければ、すぐに答えは出ない気がするな。