『陥穽と振子』
霙姉さまからのメールはいつも短い。
お友達の家に泊まるのだと思っていたら
いつのまにか動物園に行ったり
山登りに向かっていたりする。
おまけに余計なポエムを挟まないではいられないらしくて
晩ご飯の予定を聞いた蛍姉さまが
これはどういう意味なのーって
おろおろしながら氷柱姉さまに助けを求めに行くの。
霙姉さまはひどいわね!
その心の中は
あらゆる人がそうであるように
覗き込んでも一切を窺い知れない夜の闇。
すべての他人にとって、あるいは本人にすらも──
みたいなことを書いてよこすの。
わけがわからないでしょう?
そんな話に混じって
おいしそうな動物を見るなら一体どれだろう、などと相談してくる。
カバかな?
だって。
そういえば私も少し前に
たまには童心に帰れる愉快な探索コースなどを
麗なら良く知っているだろうと
いろいろからかわれたような気がするのは
これを相談していたのね!
あのとき教えてあげた経路でだいたい移動しているみたいだから。
気がつかないまま
おすすめを話してしまった私のうかつさ……
この後で同じコースを辿ったら私が真似をしたみたいになるじゃない!
蛍姉さまは予定を立てられなくて困っていた。
おそらく今夜も泊りじゃないかって
教えてあげたの!
やっぱりそうだと連絡が来たのは、だいぶ後だったけども。
振り回されるのって
怒っておなかがすくものよ。
どうやら、氷柱姉さまと話し合ったおかげで
一人や二人の分くらい多めに作ってもかまわないカレーライスにしたのは
頭がいいと思ったわ。
ただ……
せっかくだから霙姉さまが帰れなくても
なんだかんだ言いくるめて後からお金を出してもらうとして
いつもよりもいいお肉を使おう、
と聞いたときには──
なにか説明がつかない
まるであれは
ママにお年玉を預けたときの感じがしたの。
結局、振り回されたのはどっちで
一枚上手なのは誰だったんだろう。
世の中にはどうやら落とし穴がたくさんあるものよ。
私──なんだかおそろしいことを学んだような気がするわ……
おいしいカレーライスで素直に喜んでいるみんなを見ながら
世の中、知らなくてもいいことを知ってしまうときもあるのだと感じたわ。
あなたも気をつけるといいかもね。