『勇み足』
おや、これは──
楽しい豆まきは明日なのに
もう廊下におまめが落ちている。
ついさきほど落ちたばかりのような
きらきらのおまめ。
ほこりもかぶらず
よごれもなく
まるい真珠のようにきらめく。
はて、節分にはまだ早いのじゃ。
ヒカル姉じゃが恵方巻きの具を両手にぶらさげて
おいしいものが待ちきれないみんなでわいわい
お買い物の獲物を覗き込んで明日を予想しようとしたって
おまめが袋も開けないうちからひとつぽろんとこぼれるなど
そんな事件が起こるのであろうか?
むむむ、不思議なこともあるものじゃ。
心当たりといえば──
昨日は怖い本を読んで
廊下の影にも怖い鬼が潜んでいるようだと
びくびくしていた小雨姉じゃかの。
良い子たちに囲まれて
励まされながら、
それなら、おまめ!
おまめ!
おまめ!
おまめおまめ!
声をそろえて
おどかすものが逃げ出すのを祈った。
小さき子らも勇気があって頼もしいの。
きっと早くおまめをなげてみたかっただけではないと思うぞ。
それとも──
幼稚園で一足早く豆まきをしてきたわらわとみんなの
動きやすく愛嬌いっぱいのスモックから落ちたものか。
神々しい儀式のときこそ
わらわは小袖と緋袴がよいというておるのに
お洗濯が大変だからあまり普段使いはだめなのじゃ……
大きくなって洗濯板をあがない
自分だけで服を清める力がつくまで辛抱じゃの。
あっ、もしかすると
待ちきれないくいしんぼうが
袋を開けてしまったのではないか?
そんなことをしても
一年の福が
人より早く来るというものでもなかろうに。
さほどのうっかり屋は
我が家にはいないと思うが……
一応、確かめてみるとよいかも知れぬ。
みんなでヒカル姉じゃを追いかけて覗いてみた
明日のための棚の場所は
わらわもよく知っておる。
よし、兄じゃ!
競争で棚まで走るぞ。
早く着いたほうは
節分のおいしい献立を誰より早く知るのかも──
おお、ふたつの足に宿る特別な力を感じるぞ。
とんでもなく早く走るわらわの元気は
どこから来るのかわからぬが
たぶん、よく福を呼ぶ節分が来るであろう吉兆なのじゃ。