春風

『純愛』
どうやら周りの人はよく
食事の最高の調味料は空腹だと言うみたい。
本当?
そうかなあ。
汗をかいて走ってきたらなんでもおいしいからねって
そういうものなのでしょうか!
春風はそんなの
物足りないなあと感じます。
もちろん、おなかをすかせて帰ってきた子が
おいしそうにもりもり食べるのはうれしいの。
春風がみんなのために
してあげられることがあるって
天にも昇るような気持ち。
うっとり……
おいしく食べる子は大好きです。
でも、でもね
それに甘えてしまっていいのかしら、
いつでも春風の都合に合わせておなかをぺこぺこに
してもらってばかりではないのでは?
それに、おなかとせなかがくっつきそうな顔で
テーブルに着く子たちが
うっと言葉をなくすあの瞬間。
魚も野菜もお肉も
甘いデザートまで好き嫌いの対象で
たまに嫌われ者。
そんなときに
お店で食材を選ぶところから始まり
すっかり慣れた魔法の手さばきで調理を続け
隠し味も、盛り付けも
いつか喜んでくれたときのことをずっと覚えて
今日も絶対楽しく食べてもらって
生まれてから一番の食卓にするんだと
理想の大きい春風が
たった一言だけ
おいしいよ、と教えてあげるの。
あなたのために作りましたと。
喜ぶ顔を見たくて
愛情を込めてみました、と。
奥ゆかしくて優しい蛍ちゃんと違って
100パーセントまちがいなくおいしい、
世界一おいしい!
調子に乗った春風はすぐそんなことを言ってしまいます。
それに、今日みたいな風の強い冬の一日は
寒さに震えて玄関をくぐったら
次の楽しみは
体が心から温まるお料理でしょう?
こういう厳しい季節こそ
愛情てんこ盛りのチャンス。
たくさん食べてくれたら
抱きしめて褒めてあげるなでなでの一品も追加する勢いです!
料理に限らず
やっぱり世界を動かす
何より強い一番は
愛の力の他には何にもないですよね。
春風の指先から生まれる
好きで好きで大好きのフルコース。
それは食卓の上だけではなく
本当はいつも伝えたくて届けたくて
でもうまくいかなくてむずむずしっぱなしの
暴れる心の中なんです!
バレンタインが近づいて
海晴お姉ちゃんが今年のテーマを宣言したの。
やっぱり何事も基本は大事。
初心に帰って
とにかく愛!
今年は愛で行きましょう!
なんて言い出したの。
でも春風は一年中愛の塊で
体中に流れる熱い愛で汗ばむほどで
指先一本を動かすにも愛の力に頼る始末だし
もう少し具体的にしてもいいんじゃないかな?
相談中です。
たとえば、そうですね。
王子様への愛を伝えるなら
プロポーズとか、ラブレターとか
子供は何人とか、一緒に住むペットはとか
世界中を敵に回してもかまいませんとか
二人だけの世界へとどこまでも行くのとか
いろいろありますけど。
このままでは欲張りな春風が
たくさんテーマを提案して
結局全部ですねって決めたりすると
もうそれはバレンタインでは済まなくて
一生分の幸せをこれからも約束する
運命の日になってしまうでしょう?
まだみんなには早いかなあって思うの。
春風は──
春風は、毎日そのつもりなんです!
もちろん今も。
あなたが同じ気持ちなら
この瞬間に運命が決まってしまってもかまわないと
愛と愛と愛で今日も暮らしています。
あなたがいてくれるから──
神様が二人をめぐり合わせたおかげです。
きゅん!
愛を信じているけれど
バレンタインに特別な日を過ごしたい気持ちもあるので
愛の強さでは負けるつもりはありませんが
人生の先輩のお姉ちゃんたちや、かわいい妹たちと相談しながら
話を進めていく。
準備をしているのが一番楽しいなんて
春風のバレンタインには言わせないから!