『特になし』
日記の順番が回ってきて
小雨が緊張しながら報告する
近況は――
ええと、ひとつは
一人のお買い物できょろきょろしたり
牛乳が減っていたのを思い出して
いつもよりも一パック多く買って帰ったら
途中で重くなってしまい
休みを挟みながら。
でも、これくらいはできるようにならないと
いつまでも迷惑をかけっぱなし!
せめて、自分がどうしてもやりたいと思ったことだけは
できる分をできるまで――
そう思ってベンチから立ち上がった瞬間に
買い物袋の取っ手が破れて転んでしまったこと。
小雨に生傷が絶えないのは
青空ちゃんやヒカルお姉ちゃんたちみたいに
とても元気だからというのが原因ではないのですけど
どうして同じかそれ以上に傷が増えていくのでしょう?
子供の頃から解けない謎です。
ともかく、小雨がやりたいことがあっても
袋はそうではなかったの。
ぼろぼろの小雨が持ち帰った荷物は
汚れているので
がんばって自分で処理します。
といったことがありました。
あと他にも
今日の小雨のメガネが少し曲がっている理由や
いつもと違うおはしを使っているわけなど
身の回りに起こった出来事はいっぱいあるんだけど
こういうのを話してもお兄ちゃんが喜んでくれるかどうか
とても心配になってしまうから
もっと他の違うこと。
ときどき小雨はお姉ちゃんたちから
みんなとは別の意味で目が離せないと
なぜかよく撫でてもらいながらからかわれることがあって
あんまり一人にして放っておいたら
大変なことになりそうな女の子の一人です。
いつまでも泣き続けたままになるかもしれないし――
家族のみんなが小雨に声をかけてくれるの。
でもそれは――
小雨のほうが一人でいるのが怖くて
落ち込んだきり、立ち直れる自信がないから
誰かがいてくれるのがうれしい。
うつむいた小雨がもう一度顔を上げるのは
いつもみんなに助けてもらったからで、
涙を小さな妹に見られたら恥ずかしいぞって
笑わせてくれる明るいみんながいるおかげ。
だから小雨は
今日は悲しいことは何もありませんでしたと
毎日報告したいんです。
あと、できればあとひとつだけでも
お知らせに付け加えたいのは
引っ込み思案な小雨でもみんなに優しくしてもらえて
曇った気持ちがすぐに引っ込んでよかった!
と。
これも毎日の出来事なんです。
風がびゅうびゅう吹いて雲がすごい速さで飛んでいくから
小雨の厚く重そうに見えた悲しみも
あっという間になくなる季節なのかもしれません。
これからもうすぐ、どんどん光が強くなって暖かくなったら
慰めてもらってばかりいた何もない小雨が
今日よりも明るいお話を
笑いながら話せるようになるの。
春を待つって楽しいことがいっぱいだと思います。
次の春が来たら小雨のお兄ちゃんが
たくさん笑っていてくれますように。
とても小雨のお兄ちゃんだとは誰にも思えないほど明るくて優しく
みんなを照らして
私たち家族の真ん中にいてくれるんです。
そんなうれしいことをみんなに話せたらなんて幸せなんだろうな。
もうすぐ暖かい日になりそうな予感がするの。
庭のバケツや出しっぱなしで忘れていたホースの氷が解けたら
真っ先にお兄ちゃんのところへ
お知らせに行ってもいいですか?