氷柱

『クリスマスケーキが呼んでる』
下僕は甘いものは好き?
私はもちろん──
嫌い。
口にしつこく残る甘ったるさ、
見た目から媚を売ってる感じ。
食べられるから観念したかというと
そういうレベルじゃないだらしなさ、軟弱さ。
良くないわ。
小さい子が食べ過ぎないように見張っていないといけないし。
みんなの手前、甘いデザートが出てきたときは
あら、おいしそうね、うれしいねって喜んで見せるけど
なければないで
私は全然かまわないのよっ。
女の子だからってみんながみんな甘いもの好きだと思われたら
迷惑よ。
少なくとも私のご機嫌をとる下僕に限っては
うかつに的外れな言葉をこぼしたりでもしたら
観察力が足りないってご主人様は不機嫌になる。
わかってる?
そろそろクリスマスには付き物の
ケーキの準備が始まる頃よ。
うちは手作りも用意できるし、
売り物だってかわいさ次第ではそれに心を動かされた子たちが
蛍ちゃんたちやママに交渉を始めることもある。
かなり重要な位置づけにあると考えている子は多いみたいだわ。
ケーキひとつで大騒ぎ。
信じられない。
人間として生まれたからには
たった一晩の食事より気にすることはいくらでもあるでしょう。
これからしばらく高カロリーと人間的堕落の話題が続くと思うと
気が重くなるわね。
クリスマスなんて来なくていいのに。
だいたいケーキなんて
いちごが乗っていればいいんだからどれもかわらないでしょ。
あとはお菓子の家が乗っかって
マジパンの人形が笑顔で並んで
クリームに多少フルーツが挟まれて豪華さを演出するくらいでしょう!
そんな手の込んだ工夫をたっぷり時間をかけてまで
何が楽しくて大切な記念日にわざわざ──
あ、記念日も別にどうだっていいけど
プレゼント交換も参加しないといけないし
やることがいっぱいで困るのよ。
蛍ちゃんにもクリスマスケーキに詳しいみたいだからって
今年は手作りのメンバーに誘われるし。
そんなんじゃないってば!
その知識は……それは……
敵を知り己を知ればという故事に近いというか。
でも誘われたからには断るのもちょっと気が引けるから……
だから……
まあ下僕がケーキの話題になると
どうしても私の手作りを食べたいって顔をするから
一年に一度の
特別な日がやって来るなら
まあいいかと──
別に私は記念日も何も全然どうだって知らないけど
そういう考えの子もいるみたいだからね!
クリスマスっておかしいわね。
どうしてみんなをこんなにはしゃいだ顔にさせて
さりげなく私を巻き込もうとするんだろう?
ついその気にさせる雰囲気まで丁寧に作って。
やり方が強引なのよ。