ヒカル

『それぞれの願い』
今日は少し暖かかった気がするな。
なんて言うと、寒がり屋たちが悲鳴をあげて喜ぶんだけど。
もう一年もあとわずかになっていろいろありそうなのに
今日は意外と穏やかに過ごせたな、とか
そんな感想。
つい最近、急に天体観測の趣味をはじめた霙姉は
宇宙の塵となる運命を見つめなおすとかよくわからないことを言うけど
あまり体にこたえる寒さじゃなくてよかった。
それとも、気温が下がって空気が澄んでいるほうが
星もきれいに見えるのかな。
冬の夜空なら、願い事を叶える流れ星もよく見つかりそうだ。
やっぱりこの時期だから霙姉も探したくなったのだろうか。
いい子にしていた時にだけ届くクリスマスプレゼント。
一生懸命願いを届けたくて手紙を書いたんだ。
みんなのところにサンタさんが来てくれたらいいな。
でも、一年を振り返って
いい子にしていた思い出と、そうでなかった思い出を天秤にかけると
たいていは不安になるものだ。
私が小さいときもそうだったし
みんなまだ子供だから。
この時期に、急にお手伝いを申し出る子が増えるのはそういうわけだ。
お皿洗いもお風呂掃除も
毎日ちょっと積み重ねる善行の貯金みたいなものだ。
運命の日までに間に合うのか──
できれば天秤の釣り合いを戻せるところまでいけたらいいけど。
誰が見ても一年を通して良いほうに傾いたなんて言える子は
まずいないから。
いったいどうなるんだろうな。
ところが、たいていの家族の目から見て
一年とてもがんばったと意見が一致する立派な子も
せっせとみんなに混じってお手伝いに励んでいる。
冷たい雑巾がけや、大変な仕事を引き受けて
感心の上に感心を重ねる子といえば
もちろん小雨のことだ。
そんなに欲しいものがあるのかと
秘密の筋からこっそり入手した極秘情報を調べてみると
今年のお願いはみんなで仲良く遊べる電車のおもちゃセットなんだって。
いや、人を間違えているんじゃない。
麗からのお願いはちゃんと別にあって
そちらは本当に入手が現実的なものなのか、サンタさんが調査中だという情報。
まあ小雨もみんなで遊べたら楽しいんだ。
どうも誰かの影を感じないではいられないけれど。
いつもまわりを大事にするいい子が本当に欲しいものって
お願いをするのも難しくて──
そもそも自分で気付く事だってできないときも
たまにはあるんじゃないだろうか。
もちろんこれは
小さい頃の私が同じでとてもいい子だったから、というわけじゃなくて
海晴姉や霙姉と話し合ったり
ええと、あとサンタさんと相談したりする機会もまったくないとは、ええと。
あまり気を回しすぎるのも変かもしれない。
ただ、一年がんばった子に一番の贈り物ができたらと思うのは
何もおかしいことではないと思う。
高価なものがいいというのも違うし
特別すごいものを用意したいというのも何か違う。
私はなんとなく──いいプレゼントができたらと考えただけだ。
別にできなかったとしてもいいけど。
ただ考えた、それだけ。
その先はひとつもいい考えが浮かばないし
だから私も屋根に登ってみようかな、みたいになって。
見つかるかどうかもあてにならない流れ星に願い事をしてみたい感じだ。