立夏

『ミステイク』
な、な、
なんだってー!
楽しみにして取っておいたケーキ……
お姉ちゃんのお手伝いをして
立夏も経たなりに一生懸命作った
ちょっと形の悪いケーキが……
なくなっている!
お皿に乗せてテーブルに置いといたの。
リッカはつい、目を離して
小さい子の手をとって一緒に踊っていたの。
だって外が暗くなるのが早くて遊び足りない気がするし。
かまってあげたらぜったい喜ぶから楽しいし!
そうやって、早く帰ってきた分を思いっきり遊ぶぞって
そっちに頭が行ってたから
横でずっと見ていた吹雪ちゃんの話によると
リッカは夢中で遊んでいるうちに
無意識でケーキをほおばって食べていたらしいの!
そういえば記憶があるな……
こぼして手が汚れないように気をつけようって考えながら
遊んでいたのを覚えているの。
すぐ逃げて、捕まえてくださいーって言ってるちびすけたちを
クリームまみれにしたらたいへんだあ、みたいな。
うわのそらでごきげんだったみたいだよ……
ああっ、なんてことだ!
ちっとも味を覚えてないよ!
がんばって作ったから100パーセント絶対おいしかったはずなのに。
この先クリスマスに向けていっぱい試作品を作ってね、
それで、どんどん改良してさらにおいしく、見た目もよくなって
愛情込めるはずだったの。
その第一号がたちまち消えた!
しかも自業自得で。
か、かなしい……
リッカがおばかでとても悲しいの。
こんなにつらくなるなら
ケーキを食べるのが大好きにならなければよかったー!
ラブなみんなにケーキを食べてもらいたいリッカじゃなければよかった!
あまりにハードなクリスマスなんてもういらない!
はっ。
きょろきょろ。
ふぅ、あぶない。
なぜかこういう適当なことを言ったときだけ
氷柱ちゃんが忍び寄ってきて
あらそうなの、
今年の立夏はクリスマスいらないんだ!
とかいじめるの。
いじわるだ。
だから、思ってもいないようなことは
もうあんまり勢いで言ったりしない。
オニーチャンも気をつけてネ。
つまらないことを言うと氷柱ちゃんが聞きつけて
背後でクスクス笑っているんだよ。
いつどこで何を言ったのか聞かれてもいいように
いじわるでかまってほしがりやの
かわいい氷柱ちゃんが好き、だいすき!
もちろんケーキもクリスマスもリッカの生きるエネルギー!
ってかんじで、本当のことだけを言葉にしてなくちゃいけないんだよ。
今なら寒さが全部悪いってことにして
大好きな氷柱ちゃんにぎゅーっていきなり抱きついても
ちょっと怒られるくらいですむから狙い目なの。
ああ、それにしてもリッカはミスばっかりしてるなあ。
ケーキが上手にできたと思ったらこれだ。
本当のことばっかり言ったほうがいいとか決めたら先から
リッカはだめだーってそればっかりになっちゃうよ。
それでももうひとつ、まちがいなく変わらない本当と言ったら
落ち込んだ話もすぐ忘れて
うまくいったところだけとっておこうとするところ。
オニーチャン、リッカは今のとこ
お手伝いは出来るようになってきた!
それほど邪魔をしないでいられるともいうかもしれない……けど
試してみればできることもあるもんだねえ。
体が忘れてしまわないうちにもう一回復習して
そのうちめっちゃしかめっつらの怖いお顔にならなくても
鼻歌も出てくるようなリッカがキッチンに立っている日も来るんだもん。
本当だよ!
大好きなみんなの前に立って、できる、やりますと宣言したら
できるまでやってみたいとは思ってみるリッカなんだよ。
嘘でもしおらしく落ち込むなんて言わない……ちょっとだけね。