ヒカル

『トレーニングの日々』
ついに本格的な冬がやって来た。
庭で枯葉がくるくる舞うそばで
元気に遊んでいる妹たちはいつの間にか
手を擦って足踏みをして暖をとっている。
昨日よりも暖かそうな格好に変わる毎日を
ひとつひとつ積み重ねて
気がついたらふんわり重ね着の一同。
実用性重視で身を守ろうとする頼もしい集団だ。
でもあんなに外で遊びたがっていたわんぱくな子たちが
夕方が暗くなったと言ってすぐに引っ込むと
自分で考えているよりもはるかに早い冬の到来を実感する。
そう思って見ていたら
暗くて見えなくなっても鼻水を垂らしながらボールを追いかけていた子供たちが
春風や氷柱に追い立てられて家に入っていくだけだった。
しばらくは自由に遊んでいられる夕暮れともお別れだ。
体を動かすのがきつい季節になったのは確かだけど
でも、だからって
私の場合は練習をやめたら
たちまち体がなまってしまうわけで……
冬の間も地道に体を作ってきた相手と
差がついてしまうとわかっているから。
運動をずっと続けていると
冷えるのは体を壊しやすいから注意が必要で、
それでもやっぱりこの先
冬の間にサボっていたから体がなまってしまったなあ、なんて言い訳をしたくなくて
できれば軽く体を動かすことだけは続けていたいとは考えているんだ。
頬がひりひり痛むくらいの冷たい風を受けながら
こういう時こそ、今まで一日も休まず
集中力をなるべく維持して続けてきた
基礎体力を作る練習が
役に立つんだ。
いつもと変わらない準備運動、地味で大切な練習メニュー。
ずっと夏の間も油断しないで
一秒一秒を大事にして続けてきた成果を
この厳しい冬だからこそ確認できるようになる、というわけだ。
とすると体を動かせる時期に働いておこうという
アリとキリギリスの童話は
大人になってからも、どんな場面でも生きてくる教訓なんだな、
と理解できた寒い夕方に
無理がないように体を動かしていたつもりだったのに
春風に引っ張られて家に連れ込まれてしまった。
鍛えているようには見えないのに
どうして私は逆らえないんだろう……
こういう場面で役に立つ教訓も何かあるのかな?
毎日地道に積み重ねるのも大事で……
あと他の理由でまったく勝てないような相手がいるというか。
私はまだ体を動かしたりない気がするんだ。
春風にしてみれば
もう少し遊んでいられたら、と願う子供と
ちっとも変わらないまま大きくなったみたいに見えるのかなあ?