真璃

『シャドー』
いつもついてくる
さみしんぼう。
振り切ろうと思って駆けても
どこまでもぴったりついてきて
荒い息で振り向くと
涼しいお顔でどうしたのと言わんばかりに
こっちを見返してる。
ま、お顔はないけど
マリーくらいになるとわかる気がするのよ。
ずっとそばにいてうれしいのか
しゅんとしているときに一緒にうなだれてくれているのか。
どんな人にも一人いる
いつも離れない永遠の友、
そいつの名はかげ。
足元から伸びたり
縮んだりするゆかいな子よ。
フェルゼンについてくる影は今日は軽快にスキップでもしているかしら。
いい感じにお日様がありがたいのどかな秋の日曜日、
マリーと一緒に遊べるからって
あんまりはしゃぎすぎてちゃあ
かわいいフェルゼンがますますかわいらしいことよ。
よく晴れたおかげでくっきりと濃くマリーと踊る影は
あんまりいつまでもついてくるから
ちょっといたずらな気持ちがふくらんでしまっても
女王なら仕方ないでしょう?
ついてこれるかしら、
どれだけ離れる時間をがまんできるかしら
さびしんぼうさん、って
ぴょんぴょん跳ねてみたり
葉っぱが落ちた木によじよじくっつくのよ。
きょう、明るい日差しに浮かれた年少チームのみんなが
やけに足腰のバネを使っていたのは
お姉ちゃまのマリーの物真似をしたい心理が働いてしまったからなの。
ああ、罪深い流行最先端。
数日前にひらり揺れるロングのスカートを広めてしまったせいで
お庭は広がってしぼみ、また開く花びらの
時ならぬ狂い咲きよ。
それにつれて黒い花びらの影も広がり回るわ。
はしゃぎ声が澄んだ青空に届くように
おなかの奥からとどろけ、よろこびの合唱よ!
そして、決して曲げない信念で寄り添う影といつまでも踊るのよ。
なんてはしゃいでいると
急にお天気が変わって雲がかかり
寒くなってみんなはおうちに帰るの。
小雨お姉ちゃまが向かい風の中で洗濯物を取り込む頃、
影はどこかへ消えてしまった。
あーあ、いじわるしちゃった。
ぐっすり眠って目覚める朝には
またお外にもついて来てくれるかしら。
フェルゼンと途中で別れるまでの道をごきげんで歩いていける光の中、
一緒に踊ってくれるお友達がいないのは寂しいもの。