『キャンドル』
闇の中に炎を灯せば
真っ赤な光は揺れる。
暗い夜、明かりに目を奪われ
気がつけばまわりの闇は
重さを増し、濃さを深めていた。
同じテーブルで目の前に座っていた人が
いつのまにか呪縛のように
見慣れぬ衣装をまとっていることもあるという
凍える夜の出来事。
むかしは、馬の油で火をつけると
まわりの人間の顔が馬に変わり
まるで悪魔のように見えるとか
足が早そうな気もしそうだなとか……
すると辺りを魔女のもたらす漆黒の呪いに沈める祭具、
蛍が明日のためにとうきうきしながら用意したこの蝋燭は
何でできているのか……
かぼちゃとこうもりの絵が描いてあるが
かぼちゃではうまく火がつかないと思う。
だったらランプではなくて
そのまま蝋燭の形に彫ればいいのだ。
かといって、こうもりもあまり燃える気がしないな。
ふむ……どこから調達したのかは不明だが
きっと裏通りで煙突から煙を出している怪しいお店に
黒猫に誘われて入って行ったら見つけたとかそういうのがいいな。
骨と皮だけに見える店主が御代は要らないと押し付けてきて
よこしまな望みを持ったあなたを
その道具が選んだのです、みたいなあれで。
そういう話を聞くと
小さい頃の私は闇に怯えながら
その闇から目を離すことができないように惹かれる自分と出会い、
きっと甘い小豆やもち米で油を取れば
誰にも怒られないで食べ放題だと考えていたのだ──
夢を見て、きっと叶うと純真だったあの頃。
小豆やもち米から油など取れはしないというのにな……
そもそも、小さい子がおやつを食べ過ぎたら
どれほどの量があってもふつうに怒られるのは変わらないのだと
どうして私は思い至らなかったのだろう……
おなかを壊さないうちに大人になれてよかったというべきか
それとも一生のうちに一度は
おなかを壊すまで好きなものの食べすぎる経験をして、そして──
いつまでも大人になっても懐かしみながら語り続ける生き方をしたかったのか。
今となってはもう
お気に入りの服がおなかにつっかえてしまう心配をしてできなくなってしまうこと。
せっかく作った仮装が入らなくて怒られそうで、
完成した時にあんなにいい笑顔だった蛍に悪い気がして
それはもうどうしても叶えられない
無邪気な頃だけに許された幼く小さな夢。
そして今の私は、いったいどんな蝋燭を求めて闇をさすらうのだろうな?
二人が近づく空間に、ちょっとゆかいなハプニングが起こって
そんなささいな記憶をずっと大事に胸にしまっておけると
信じてみたい気分に染まって
私の胸はその瞬間のままで戻らなくなりそうな、
そうなってもかまわないような夜。
難しい注文だ。
古い店に頼んでも手に入らないかもしれない蝋燭の火だ。
どこにもないかもしれない炎の揺らめきをさがして
私は手探りで暗闇をさまよい
怯えながら光のあるほうへ歩くのだ。
おそらく私の過ごす夜はずっと前からそうなるようにできていて
推測していた通りに闇を見つめる。
その先に、想像していた美しい光がたとえどれほど小さくても灯るのか
まだわからないし、わからないままの彷徨は終わる気配もなく続くのかもしれない。
今日の炎はただ、面白いことが起こる予感だけを広げながら輝いているな。