観月

『おはし』
姉じゃたちは毎日ご用もあって
いつも小さい子の面倒を見てくれるとは限らぬ。
だから、なるべく下の妹を見てあげるのは我が家のルール。
おいしいごはんの時間にうるさくしないことや
おはしの持ち方も
大きな姉じゃたちから教わったわらわが
今度は小さい子に教えてあげる番となる。
白いそでをめくってお皿に手を伸ばしたわらわの手の中で
お豆も何もつまめず、突き刺すだけで握りこんでいたおはしは
去年の春の桜の頃にはとうとう指先をひょいひょい踊って
お米の粒もこれ、この通りとなった。
ピンクやこげちゃのそでをめくったさくらは
食欲の秋で鍛えられ
おはしの技をものにした。
こういうとき、うっかりしていると
お隣の椅子には面白がって
わざとまちがったおはしの持ち方をするおばけが座って
椅子が一つ足りないな、と不思議に思っていると
知らないうちにつられてしまうのじゃ。
何事も覚えたては
まぎらわしくなってしまいやすいのでちゅうい!
心を落ち着けて、正しい持ち方を何度も反復練習をする。
気長にあせらずゆくことが
結局は一番の近道となる。
ちょうど、このところ増えたおばけを追っているうちに
いたずら者たちを叱っておいたので
さくらもしばらくは気が散らないでごはんが食べられるというもの。
みんなでぱくぱくおはしを使って
みんなで一気に背を伸ばして
兄じゃにとびつき、びっくりしてもらう。
そういう作戦が
目と目を合わせて頷き合うだけで通じている。
さくらがよく噛んでいると
よしよし、と小さい子たちが声を合わせ
後に続いてわらわもマリーもよく噛んで食べたら
さくらがよしよし、と声を出すというぐあいじゃ。
うむ、このごろはみょうに
ちょっとたいへんな追いかけ追いかけられっこもあった気がするが
もちろん、それも避けられぬ修行。
こういう時があるからこそ
日々は常にたゆまぬ鍛錬だと実感する。
よく食べ、よく遊んで
あとはお風呂でゆっくり汗を流せば
良い子で過ごした一日は終わる。
わらわがかつて教わった、あわあわの体を楽しく洗う歌は
今日このあとさくらの体をきれいにする。
頭のさきっぽから順に洗っていくと汚れが落としやすくてよいぞ。