『計算違い』
はーっ……
はあーっ……
あ、お兄ちゃん。
ううん、悩みとかじゃなくて
落ち込むようなことでもなんでもないんです。
だけど蛍は思い込んだら
それだけで頭がいっぱいになっちゃって
先のことなんて何も考えてなかったから。
すごく──楽しみにしていたのに。
そうなの。
ハロウィンは間近。
今年もみんなが元気でいてくれて
風邪も引かず、好き嫌いは──まあ、たまにするけれど
けんかもしながら仲良くして
こうしてお楽しみのお祭りが近づいてきました。
とても立派ないい子たちに
楽しい贈り物ができたらと思ったの。
おいしいもの、たくさん用意したいな。
歌と踊りと、遊びにもいつも一緒にいてあげよう。
この日だけのちょっと小悪魔風かわいい装いを
思う存分着てもらいましょう。
それで、私もとっても怖がるんだーっ!
きゃーっ!
お兄ちゃん、たすけてーっ!
……
こんなに急に冬が駆け足でやって来て
しょぼしょぼ窓を伝い続ける冷たい滴。
急に暖かくなるということは
ないですよね、やっぱり。
だいぶ多くの衣装を手直しして
いくつかは袖を通すこともなくクローゼットの奥へ。
みんなに着てもらえたら
きっと似合ったはずの
女の子の夢と憧れと
ちょっとした未体験のセクシーさへの挑戦は
凍える雨を運ぶ真っ黒い雲の下で小さく肩を丸めて
暖かい仲間がいるみんなのおうちへ、
しまいこんだ服の合間へと引っ込んでしまいました。
もちろん女の子だけでなく、お兄ちゃんの分も張り切って用意をして。
でも、こんなに寒いとなれば
お祭りを楽しむどころではなく
無事に毎日を過ごせたらそれが一番うれしい気もするし
こうなったら今年はあったかモードのはじまりをテーマに
早くも楽しい冬を迎えられそうな新しいハロウィンに
気持ちを切り替えてみようかな?
あたたかくて喜んでもらえるもの、
えーと
おなべに
おうどんに
おふろなど
ですね……
つまり……だから……
ああっ、なんだかアイデアが浮かばない!?
どうもまだ頭が冬に切り替わっていないみたい!
うーん、じゃあまだ時間はあるからゆっくり気分を変えていくことにしましょう。
寒いときに暖を取るには
まず最初に思いついたことからはじめるの。
いつも頼りになる人のところへ
まっすぐ走っていくところから、
そうやって冬はだんだんと近づいてくるんです。
毎年そうだったし、なかなか変わらないんじゃないかなあ?
ではまず、お兄ちゃんのどこが一番冷たくて
暖めてみたくなるのか確認からです。
そのうちみんなの分もだけど……まずはお兄ちゃんが最初。
寒くなるとはじまるいつものお楽しみ、
こういういいこともあるって
どうして忘れてしまっていたのでしょう?