『前進』
人は常に闇を迷い
時には行く先が見えない道で立ち止まり
または正しい方向か何も確信はないまま
それでも気がついたら
いまだ見知らぬ遠く離れた場所に立っている。
過ぎ去った日々はいつも必ず
周りを不安な気持ちで見回していたのに
どうして私たちは歩き出すのだろうか?
先がわからないことの葛藤に振り回されながら
重い足を引きずる旅路のはずが
まるでそれが自然な行為のように
いつか彼方へと向かっていた──
辿りつけないと知っていた場所を通り過ぎて。
きのう、私たちが微笑ましく眺めた
幼稚園の運動会というものは
やはり子供らしい内容であり
たとえ悲しいことがあっても
次の日の雨を悲しみが呼んだ涙雨だと考えたりなどは
あまりしないようで
さくらに話しかけても沈んでいるような様子もない。
お兄ちゃんに遊んでもらえるから
大声で歌ってご機嫌だ。
立派に一番をとったマリーもどうやら
今日は疲れた体を休める恵みの雨と認識することもなく
観月と話が合わないらしい。
みんなで窓に並んで小雨の雨上がりを待っていた。
しかしそれでも
思い出すと不思議な気もする
あの瞬間の出来事。
スタートラインに立つまで
固い顔をして、動きもぎこちなかったさくらが
駆け出してすぐに転んだ後、
当たり前のように立ち上がり
追いつけないほど引き離された集団のびりっけつを
自信いっぱいの表情で駆けた
何の迷いもない走り。
ほんの短い時間に
悩みや悲しみというものを抱く余裕もないらしく見えたが
あの時に小さな子供を動かしていた力とはいったい?
これは私の知識を総動員し頭を捻る楽しみのある難解な疑問といえる。
みんながもらってきた参加賞は
写真が入るメダル状の飾りだ。
最近の幼稚園はいいものをもらえるんだな。
私の時にもらった折り紙は
みんなで使ったらすぐになくなってしまった。
しかしその際に手先の器用さを育てた春風やヒカルの
後の大きな成長を手助けしたのだと思えば
よい贈り物をしたうれしい出来事の記憶として
幼稚園の思い出はこれからも美しく残っていくのだろう。
その時の活躍については
長い話になるから──またいつかだ。