小雨

『小さな希望』
早くから台風の影響を受けると考えた
海晴お姉ちゃんの予報は惜しくも当たらなかったようで
雨も風も朝からとても弱く
一瞬、台風が近いなんて忘れてしまうほどになることも。
すぐには危険なことにならなくてよかったと
海晴お姉ちゃんは複雑そうに笑ってくれましたが
みんながお買い物に出かけたくて
雨に濡れなくてすむデパートならとおねだりをはじめたときは
やっぱり予報に自信がなさそうでも
あまり気が進まないみたいで。
一緒に行ってくれるお兄ちゃんの言うことに従って
様子を見て帰宅すると決まったらすぐその通りにする!
という条件付きでしたが
それでも家で待っている間は心配そうにしていたの。
ちゃんとちびっこのみんなはお兄ちゃんの言葉をよく聞いてくれましたか?
急に天候が変わるのが怖くてふるえていた小雨が
本当は、頭が良くてとっさの判断力も持ち
お兄ちゃんをそばで助けられる子であったなら。
うーん……願い続けてもいつまでも叶わないことのひとつです……
ただ、今回の台風は
海晴お姉ちゃんも予測が難しかったように
ずいぶん遅い速度で進んでいるらしく
場所によっては大雨が続いているそうです。
しかも、勢力が強いということは
台風が近づいたとたん、いきなりの雨と風に襲われ
それが長く続くみたいで……
無事にみんなが帰ってきて
暖かで明るい夕食も平和に終わる頃
ついに大粒の雨があたりを叩く音が聞こえてきました。
小雨の心配が
ずっとただの心配のままで終わって
笑われるだけですむならそれが一番良かったのに。
もうたちまち
雨は強くなる一方で
身を震わせる風の音が
これ異常ないと思ったすぐその時から激しさを増していく。
長く、恐ろしい夜が
やってきてしまうのでしょうか。
ここは台風の進路から離れているし
大丈夫かもしれないけれど
おうちのみんなも不安な顔が目立ち始めます。
お兄ちゃんがついていてくれるんだから怖がることなんて何もないはずなの。
頼れるお兄ちゃんがいるから。
明るくて優しいお兄ちゃんがいる小雨だから──
あの、お兄ちゃん。
もしも小雨が何があっても泣いたりしないで夜を越えることが出来たなら
次に明るい晴れ間があらわれたとき、
なんとかお兄ちゃんのおかげで無事でしたって
一言だけ自慢をしても許してもらえるでしょうか。
そのときだけを願って
強くなれるような気持ちというものが
小雨にもありそうな、
というか、あったらいいなあと
ちょっとした希望を持つことが
ただ深まっていくだけの怖ろしさを感じる夜には
頼りになってくれそうと思ったんです……