海晴

『大事なもの』
私たちの街にも
台風が近づいています。
ぽつぽつ降りだった雨や風は
時間と共にだんだんと強くなり
これからの激しさを予感させる。
夕方の窓から眺めた雲は
まだ薄く明かりを通し
今すぐに大雨を呼びそうではなかったわ。
明日の朝にはもう一目でわかる恐ろしさに変わるという
おうちの私の机にある予報は
どこまで当たるだろう?
どうしても新米のうちは頼りにならない実力のお天気お姉さん。
番組がお休みでは、今日も明日も出番はなく
仕事といえば雨に濡れて帰ってきた子たちをタオルで拭いてあげたり
暖かい着替えを用意することばかり。
まだ降りは激しくならないと安心して、
あるいはあんまり降ったら傘を持って迎えに来てくれると
何にも心配しないで雨の庭をちょろちょろ行ったり来たり。
もう恐ろしい大雨に襲われている地域もあるのに
知らないというだけでこんなに脳天気な顔になれて
まったくうらやましい!
もしも大雨が続いたらとか
みんなが怪我もなく無事にお天気を迎えられるのかとか
心配するのは私たちの役目。
だとしたら
守らなくてはいけない元気な顔でいてくれるのが
子供たちの仕事の一つなのかもね。
細かいことを考えない無邪気な顔。
いいけどね!
私たちはいつでもそんな元気な顔ばかり出来ない代わりに
その明るい顔がどれだけ大切なものなのか
本人たちよりもずっとよくわかっている自信があるんだから。
転んで泣いたこともたちまち忘れて駆けまわったり
何の怖さも知らないで面白そうに雨雲を仰いでいるのんきな顔よりも
いつ失われても不思議ではない大事な毎日を守ることにかけては
ずっと真剣になれそうよ。
今日もなんだか子供たちの提案で
てるてる坊主作りの大会がはじまるんだって。
無邪気さを忘れた私たちだって、できるだけの準備をしたら
あとは大雨がそんなにひどくならないように祈るばかり。
きっと誰にも負けないてるてる坊主が作れるはずね。
いちばんかっこいい顔をしたりりしい子をひとつ
お姉ちゃん特権で目立つところに飾らせてもらったら
ちょっとはみんなの中で
私のお天気お姉さんとしての格も上がるのかしら?