観月

『かなしみ』
ううむ……
困ったな。
久しぶりに暑さが戻ってきたから。
みな油断してすっかり補給を忘れていたので
冷蔵庫にひとつもアイスが残っていない。
あるのは水ようかんばかり。
山になって積まれているばかり。
きれいな花が咲いた絵柄のふたの水ようかんを手に
さくらが言うには
暑い日にはやっぱりアイス。
あんまりわがままを言ってはいけないのは
よくわかっているけれど。
暑さの中を楽しみにして帰ってきたのは
おやつの時間に冷蔵庫が開くとき
カラフルで、さわやかで
甘く冷えた
アイスがあればいいなあ……
と、涙をこらえてぷるぷるしている。
うーん
わらわもやっぱり
アイスがうれしくてうれしくてたまらないことは
さくらと年も近いからよくわかるし
この暑さにはぴったりに決まっているのだが。
明日のお買い物でアイスを探す約束をしてあげた蛍姉じゃも
おそらくはわかっている。
休日の買出しは荷物が多くなって
とてもアイスまでは運んで帰れないということを。
ごまかすように──
さくらの要求にさみしそうな笑顔で返事をしていたが。
もしも仮に、夏の間によくしてくれたときのまま
材料を仕入れて家に帰ってくるのだとしたら
お願いをした通りの
いちごのアイスや、
メロンのアイスや、
おもちのアイスなどは
きっと作るのは難しいのだろうなあ。
後ろで聞いていた氷柱姉じゃと海晴姉じゃの見合わせる顔が
どんどんと動揺を大きくしていった。
さくらは明日、約束を守ってもらえなくて
泣いてしまうのであろうか。
それともただひとつ
蛍姉じゃが長く考え込んでいた
マーブルのチョコレートのお願いだけは
よく工夫をしてもらってどうにかなるのか。
小さいわらわができることをするなら
さくらがするようにおねだりをするばかりなのじゃ。
兄じゃからも言っておくれ。
さくらは他にも面白いことがあったら
食べたかったもののことはわりとすぐ忘れるかもしれないが
もしかしたら覚えていて喜ぶこともあるだろう。
そうしたらみんなおいしいアイスをますます楽しく食べられて
ちょっといいかもしれぬ、と。
ああ、それにしても──これからも暑い日が続きそうじゃ。
わらわもさくらもまだまだ暑い日には
うれしいことがあったらいっぱいよろこぶぞ!
泣いてしまいそうになるよりも
ちょっとアイスなどのいいものを
多めに用意しておいてもいいのではないだろうか。