星花

『君がいるなら』
楽しい時間は早く過ぎ去るもので
がまんして続けると決めた宿題の時間はのろのろして進まないと
よく夕凪ちゃんは言うけれど。
星花もたまにはその通りだって賛成していたけれど。
もう夏休みの最後のお楽しみだったお祭りまで昨日の日曜日で終わって
あとは31日のおしまいまで
ほんのわずかになった──
今になって思い返せば
なんだか楽しかった時間も進まないように思えた時間も
全部何もかもが
矢のようにあっという間に
つかみとる隙もないままに通り過ぎてしまった
ただ一瞬だけの
またたきでしかない毎日だった気がする
なんとも変な感覚。
戻らない時間を過ごしたんだと
寂しくなる気持ちも確かにあるのに。
きっといつかは終わるもので
当然のようにあっという間に過ぎていく、
最初からそういうふうになっているのだから
寂しくなって、惜しみながら
胸の中が複雑でも
悲しいとか
戻りたいとか言わないでもよくて──
つらくなる必要なんてぜんぜんない。
ただちょっと
あともうほんの少しでも
楽しい時間も大変だったように思えた時間も
もう少しだけ長く続いてくれたら良かったのになと
言っても仕方がないことをぽろりとつぶやいて
照れくさくなって今度は笑って見せるだけ。
いつもは周りの声でもどうやっても止められないまま
明るい庭へまっすぐに走り出していった星花なのに
残り少ない日を物思いに使いきって
もったいなくぼんやり過ごしていました。
部屋の中にいて片付けの途中で出てきた
一夏で使い切ったらくがき帳は
毎日変わることなくみんなで話したことがいっぱい。
遊びに行く予定のメモや
いつ着るのかもわからない夏服や水着のデザインのアイデア
何かの計算の切れはしに、
それから映画の続きやカマキリや
お兄ちゃんやお姉ちゃんたちや
あとは、ひまわりとちょうちょの絵。
たちまち通り過ぎた今年の夏休みに
今になって見回したら、形にして残したものはこれくらいでした。
もうそんなにたくさんは増えないらくがき。
みんなで一緒にいた夏休みが終わりますね。
またいつか星花の手元に何かが残るなら
今度はもうちょっとだけ大事なものが
たまたま暇な時間の掃除の最中にひょっこりあらわれるでしょうか。