春風

『見知らぬ舞踏会』
東にお祭のうわさを聞いて
盆踊りに向かい
西に太鼓の音が聞こえると
盆踊りをして帰ってくる
夏休みの子供たち。
体を震わせる太鼓の音と
明るくてどこか物悲しい笛と鐘が
びりびりきて
ぴったり体に合うのだと聞きました。
今日もまた
けっこう元気が有り余っているのでしょうか。
または、長い間揺れる軌道を描いた台風がついに近づいて
そわそわするのに
様子を見に行くはずだったお祭りが一つ明日に延期となった
そのためなのか。
夏の暖かく緩んだ空気に
ほんのわずかにいつもより散らかりつつあるリビングは
今夜、掛け声がとどろき
いくら注意したところで
どうしたって止めても止まらない踊りの真っ最中。
小さい子も全身で
付き合いのいいお姉さんたちも少しの省エネスタイルで
ダンス
ダンス
またダンス。
いつまでも続く踊りの途中。
見たことのない斬新な振り付けは
教えてもらった踊り、練習中の踊りをてきとうに
その場でくっつけてしまったという。
ああ、なんだか身振りがそろっているようなそうでないような雰囲気は
めいめいが好き勝手に
自由なだけが頼りだから
それでなぜか
むんむん汗っかきで
これからどうなるかわからないめちゃくちゃでも
熱気ばかりにあふれている。
小さなお披露目会が始まったということです。
新しい歌や
おもしろい踊りって
自分で勝手に作ってもいいもので
突然の機会を逃さず発表してみたりするものだったの。
どうも春風は頭が固くてそれに気付かなかったのね。
ちょっとずれた鼻歌を
こっそり密かに恥ずかしそうに歌うだけだった春風は
目が覚めた思いがするの!
いつのまにか重いまぶたを閉じて眠っていたのね。
見て見てーって
その場の思いつきしかなくっても
腕を引っ張り、いつでもお願いをしても良かったんだわ。
たぶんそうなの。
気がついたからには
つまり今夜は眠り姫がぱっちり起き出し
もう夜なんてなんにも知らないような顔をして
ずっとわがままを言ってみてもいいのです。
でもそれだと、みんなの大騒ぎを止める人がいなくなってしまうから
春風が誰かの袖をつまんでおねだりをするのは
みんなが寝静まった頃
雨と風がもう少し強くなって
一人でいるのが今よりちょっと心細くなったくらいで
きっと誰かを誘い出そうとしますよ。