『旅先』
もうすぐ行楽の季節になる。
なんだか連休が来るたびに
出かけるようにと急かされている気がする。
だが、そんな時期もあるのだろう。
四季の変化が鮮やかな私たちの街。
長い冬が終わった後だからな。
この時期に雨で気温が下がると
少し前、骨まで凍える寒さがあったと思い出す。
体はまだ覚えている。
だから良く晴れた暖かな日を浴びるために
明るい場所を目指すのだ。
戻ってきたときに
見慣れた景色に新鮮な気持ちで向き合うために。
うん、でも疲れているという意見が多いなら
別にのんびり過ごす休日を選ぶとしても
私は全く異存はないのだが。
それに骨休めをするにも
温泉だったり食べ歩きだったり行き先は見つかりそうでもある。
陽気が誘う頃だからな。
暖かくなったら
多少の理性では対抗しようがない。
しょせんちっぽけな人間の力では
どうしようもないのだ。
そもそもあの
魅惑の響き。
黄金の週間だと言うじゃないか。
昔から良く例えられるだろう。
輝かしさ、まぶしさ、かけがえのなさ。
そんな鈍い光沢。
黄金だ。
もちろん未熟な色彩にも愛さずにいられない何かがあるのだし。
全てを飲み込む漆黒に
逃れようのない畏怖を抱くのもまた人のあり方だ。
しかし滅びがいつか訪れる宇宙だって
銀河の隅っこのちっぽけな星のどこかに
新緑の芽吹く今ならではの楽しみがあるのもまた事実。
全てが終わるとき
この美しい頃を一度は思い出すのだろうな……
そうして私は悲しむばかりでなく
必ず訪れる日を受け入れるのかもしれない。
気がつくと、次のお出かけの行き先を決める時期が来た。
またちょっと肌寒くなってしまうと
温泉を求める声が
胸の奥深くから聞こえてくる。
すてきな景色と
おいしいものが並ぶ地もどこかにある。
そう、確かにあると
私は信じることができる。
とりあえず今日は入浴剤を選ぶ権利をもらえた。
ひとまずこれで我慢だ。