吹雪

『リスク』
日中の気温が上がりやすくなったようです。
時間帯によっては防寒に気を使わなくてもすむかわりに
今度は暑さに備えて調節しやすい服装を選ぶ必要があるのと
朝晩との大きな気温差が発生するため
さらなるおしゃれのセンスが問われる……
ということです。
厚い上着の襟を引き寄せて登校した夕凪姉は
学校からの帰りにカバンから服をはみださせている。
汚れや危険からはみだした上着を守ろうとするより
丁寧に畳む時間であったり
ぎちぎちになるカバンの留め金を守ろうとする理屈であるらしい。
きつくて弾け飛ぶ金具は
不意に立ち上がる際のスカートのファスナーばかりとは限らない──
とはいえ、理論的に遊ぶ時間を作ろうとするので
言葉での説得はたやすい。
上着をどこかに引っ掛けてしまったら
次の日から朝から半袖になってしまうのだから。
これに対して
その時はその時だと答えられる発想は
現時点で私が登下校を共にする相手には存在しないと考えられます。
立夏姉はすでに中学生。
半袖の制服はまだもう少し先のこと。
どのように昼の暑さをしのいでいるのかは
これから情報を集めなくてはわかりません。
さて、人間は着衣に頼る生物なので
おそらく服を脱ぎ日常生活を贈る週間は
地球上でもごく限定的な環境でしかとられない選択だとは思うのですが
家に帰って小さい妹たちと遊んでいると
愚かな人間には見ることが出来ない服を着ていると言い張ることもある。
あまり愚かさを判断する基準に視力は使わない気がします。
しかも服が透明になるのは視力とも関係がないかもしれないし……
それでも、服を着ない理屈を唱えているので
もしも説得をしたいならば
なんとかして知恵を出さなくてはいけない。
愚かな人間に見えない服が存在しないことの証明。
服装が鑑賞の用途にあるのであれば
鍛錬によって肉体が芸術的価値を獲得する例はあり
それを邪魔しない服が
ありえないとは誰にも言い切れない。
そんなこんなで虹子はくしゃみをはじめてしまう。
見えない服には防寒の性能もないから
急いで服を着てもらわなければならないのですが。
こういう時には
おしりの方から持ち上げて虹子を脇に抱え込み
パンツの歌を明るく歌いながら衣装タンスを目指す春風姉の行動が
考えられるうちでは最適と思えます。
私も暑いからといって薄着になっていたら
あんなふうに軽々と持ち上げられてしまうのでしょう。
まだまだ残る肌寒さが運ぶくしゃみと鼻水という現実の前では
薄着になりたい気持ちは力を持たない。
暑さから逃れたい衝動、
素晴らしい晴天による開放感の誘惑と付き合っていかなければならなくなる
これからの季節は
私たちも服を脱ぐときに気をつけなければいけません。