綿雪

『ダンス』
あしのふみばが
ないない
なくなってしまいました!
ついに
こうなってしまったのね。
春休みはユキのところにも
あそぼうってみんながやってきては
興味があるものを掲げて持って行き
また別の場所で見つける。
それを繰り返すと──
ころがるおぼうし。
おもちゃのフライパン。
あやとりの糸。
黒いマントと仮面。
まほうのタンバリン。
変身セット。
ねこのみみ。
ゴムで出来た恐竜のしっぽなどが
家のどこもかしこも
床に広がってしまうの。
お姉ちゃんたちが歩く道もふさいでしまいます。
これでは
みかんも取りに行けない。
おトイレもがまん。
絵本の続きが
手の届かない彼方の本棚に……
ユキのところに
こっそり一口分のおやつを届けて
味見をしてもらうことも出来ないと
氷柱お姉ちゃんが悲しみます。
今までずっと
ベッドの上で過ごす時間の方が長かったくらいのユキは
こんなに散らかすことは出来なくて
すごいなあって思うの。
散らかさないのがいいとわかっているんだけど
いつも整理整頓が得意な子たちだけでは
これでは大変だとみんなが気付き
いざ一念発起して掃除を始めるときに
自然と声を掛け合って協力したりは
なかなかできない。
いつも一人の片付いた部屋では
掃除に慣れていたって
誰かの役に立つこともないし
キッチンのほうから届く
温かいミルクの香りに気づいて
手を取り合ってはしゃぐこともなく
大なべから分けてもらえる差し入れの飲み物を
ふーふー声を出して冷ますこともないのです。
おきがえのうた。
うでまくりのうた。
ぞうきんがけのうたも
ずっと知らないまま生きていく
いつも一人のユキは
春が来るといなくなっている。
暖かい日と新しい学び舎に通う春を待つ
短くかわいいお休みが来ただけでもう
はしゃいだみんなに巻き込まれて
逃げられないんですね。
ごちそうさまでした。
お姉ちゃんからもらった甘い匂いの飲み物。
立ち上る湯気をお兄ちゃんたちと囲む時間。
花びらが震える曇り空の下にある景色の全部。
これからも何かと大変なユキに
どうか元気をたくさんください。