春風

『みつめる』
あなたの心のどのあたりに
春風はいますか?
こんなに風が強く強く吹き荒れる日、
ほっと一息つくことができる帰れる場所として
春風のことを思い出してもらえるならうれしいです。
びゅうびゅう吹いて
ものすごい春のあらし。
こういうのも
春の風だな!
そう!
春風だな!
という感じで
すぐ私のことを思ってくれるなら
他の子より抜け駆けで
名前のおかげで、ちょっとお得でよかったのですけど
そこまでぜいたくばっかりは言いません。
思い出しやすさで
あーちゃんや青空ちゃんに負けてしまうし
かわいい赤ちゃんたちと張り合って
王子様を取り合うなんて
お姉さんとして──
みんなが見ている人前では少し我慢しないといけないことだと
ちゃんとわかっています。
春の暴風が強くてすごいからといって
すぐ思い出してもらえなくても
人前ではがまん!
たとえ
愛しの王子様を
鳥かごの中につかまえて眺めていたくても
小さくしてポケットに入れて
どこにでも連れて行きたくても
いちばんきれいな季節の花と一緒に押し花にして
お気に入りの本に挟んで持ち歩きたくても
厳しい決意の表情で
強い風の中を歩くあなたを
止めたりなんてできない。
私が同じことをされる覚悟を
とうの昔にすっかり決めていたとしてもです。
やっぱり、自分に至らぬ所があると知っていても
それでも少しは自分を信じて
あなたを支えたいですもの。
明日からの週末は
王子様は特別な用事があって
デパートのお菓子売り場などの情報を
霙お姉ちゃんに口止めしてこっそり聞きだそうとしていると
霙お姉ちゃんが言いふらしています。
相談してもらって
うれしかったんですね。
あなたが決めたことなら
春風は寂しても──
いつも一緒のときを過ごせないときがきても──
涙を流すわけにはいかないの。
いってらっしゃい。
待っています。
何のご用なのかは良くわからないけれど
きっとあなたがいて幸せな家族たちは
うれしいおみやげ話をもうすぐ聞けるのだと
いつも笑顔で見送ります。
どうか気をつけて。
そして早く帰ってきてくださいね。
春風は待っています。