観月

『夜会』
まぶしい夕日が斜めから突き刺さる時刻、
肌寒い風に追われるように
子供たちは駆け足でどんどん家に戻っていく。
からすの子を歌ったり、
木の棒を置いていったり
遊び足りないように跳ねたり
帽子や上着を忘れたりしながら
ほかほか火照った頬で
伸びる影から逃げ出すと
広がり始める暗がりから
ひとつふたつ瞬いたまん丸の目玉、
とがった歯を染める白い吐息。
無念そうな咽び泣きも
抑えきれない歓喜の忍び笑いも混じりあって
もうまもなく闇が落ちるまでの間
生白い手首を伸ばし
光と影をまたいで躍らせる。
すぐにあたりは
人間が置き去りにしようとした
ひとなつっこいものどもに埋め尽くされ
また新たな夜が訪れる。
兄じゃは夜は好きか?
くり返しやって来る
まだ見ぬものの時。
彼らが変わらずのたうち暴れる定めは
まるでいつまでも子供たちの目がきらきらするのと同じで
日がめぐりだしたはじまりから今に至り
なにしろ夜中は墓場で運動会もするというから
陽気なお話じゃ。
おくつを鳴らして帰る時間が遅れ
もしも出会ってしまったなら
声を潜めて邪魔をせず逃げ帰るか
術を唱えて追っ払うか、急いで決めないといけないのであろうな。
まだまだ冷たい夜の
今夜の献立はおうどん。
神々しいきんいろのおあげからただよう優しい香り。
菜の花のおひたしをそっと置いたら
胸いっぱいに吸い込む春のきざし。
もう完成かと思ったら
ここぞというときに
肝心かなめの
ねぎがない。
青く香り高いねぎ。
しゃきしゃきのねぎ。
さわやかで
独特の持ち味があって
蛍姉じゃの手元とまないたで
とんとんほぐれるかわいらしい
ねぎがちょうど
足りなくなったのじゃ。
そういうもののけのいたずらか?
台所で様子を伺いながら
両手で持ち上げて持っていってしまい
後で食べるつもりなのか。
そういうこともよくあるのだろう。
それは子供が元気なのと
変わらない昔からの定めなので
まだまだやる気が満ち満ちているさくらが
暗くなりきらないうちに
子供の足なら
歩いて二分。
すぐ近くのお店におつかいに行ってくれると申し出た。
マフラーを巻いてあげて
上着を着せてあげて
忘れないようにしっかり帽子をかぶせてあげたら
小さくてもきまじめな顔が凛々しい
弾むようなおでかけ間近。
夜が落ちる前の常世
いま、避けようもなく縁を持つのは
見守ってくれる神様か
手招く白い影になるのか
それは日頃のさくらの心がけ次第じゃ。
見送るみんなに揺れている表情は
手を振るあさひを真ん中に踊り揺れるのも
今にも追いかけだしそうに足踏みをして
子供みたいに走り出す寸前であってもやはり
夜がもたらすのは
今までの行いに従う通り
変わらぬ定めの
そのままじゃ。
永遠と紛うほど重ねた深い夜も
きっとすぐに
結果をもたらす。
その経験を積み重ねる
短い時間を共にするのも
否応ない
わらわと兄じゃの定めとなる。