氷柱

『散歩道』
家の中にこもりきりの時間が続いた
せっかくよく晴れた日曜日。
景色を見て歩く趣味も
陽気に和む心境も、まるで私には似合わないから
ただ凝った体をほぐすために
自転車に乗ってゆっくり走っただけ。
開きかけた花やぬるむ川の流れなんて何にも知らないで
安全運転のみを徹底して帰ってきたわ。
だから日記で言うことも何にもなし。
春を喜ぶような優しい氷柱はいない。
気長なお嬢様だらけの私たちの家族だから
一人くらいは強い子がいないとどうしようもない気がするし
私が最後の防波堤なの。
寒さが緩んだくらいで
ぶんぶん尻尾を振って出かけたりするもんですか。
だから見つけたのは報告するようなことでもなく。
ショーウインドウの飾り付けに凝っていた小さなお店が
ぴたっとシャッターを下ろして閉店の張り紙ひとつを残していると
私は決して大変なことがあったくらいで
あきらめたり
やめたりなんか絶対にしない。
何があってもそんなことするわけがない。
それだけ思って
寂しくもなんともないって自分に言い聞かせながら通り過ぎたり。
また別の場所で
開店準備の改装に人が集まっていたら
どうせこの世知辛い世の中では
うまくいくほうが少ないんだから
無謀なことをはじめてまったく応援する気になんてなれないな。
あれが私の知っている人じゃなくて良かったわ!
自転車を止めて
たまたま曲がり角もある行く先の確認をするついでに
観察するほどでもなく見つめてそれきっりで
あとは忘れるだけで終わり。
気晴らしになったかというと
別にそうでもなかったとしか言えない外出だったわ。
なに?
やめてもはじめても怒られるなら
どうしたらいいんだみたいな不思議そうな顔をして。
私はただ
関係ない人が何をしても興味がないだけ。
休みの日もいつでも
自分がやりたいことをしているんだから
情緒を知らないガリ勉であろうと
まわりは放っておいてくれたらいいってそれだけの話。
だいたい、他の人だって自分がやりたいようにやってるんだから
私がどんな感想を持ったところで意味がないことよ。
そんなにしてみたいことがあるなら
好きにすれば。
私はやりたいようにやる。
好きにするから。
へこたれるなんてことを知らない
家族で一番強い子でなくてはいけないの。
それにいつも
何かあったら頼れる人が
意外と近くにいるものだわ。
一般論としてね。
別に深い意味はないけど
たまたま見かけたお店で
ちょうど焼きたてのたい焼きがふたつだけあったから
さめないうちに食べないとかわいそうだと思って
食いしん坊の下僕のところに持ってきたわ。
ぜんぜん深い意味はないけど。
他の油断ならない食べ盛りに知られたらいちいちうるさいから
みんなには秘密にするのよ。