綿雪

『はじまりの声』
しずかにしずかに
息を潜めるように
明るくなってゆくのを待つ冬の朝。
氷柱お姉ちゃんと選んだカーテンは
明るい色なんだけど
日差しは急に暖かく明るくならない寒い冬なの。
早起きを呼ぶ
ちゅんちゅんかわいい声も聞こえない
ひっそり。
霜柱が伸びていく
ひりひりとした音まで聞こえそうな
とても長い冬を過ごしてきました。
このごろはようやく
ユキもそんなに厚着をしないで
明るいお日様の下に遊びにいってもいいの!
そろそろお昼の温度は
春とあまり変わらないときも
あるというの。
明るいお外の光はまだ
まぶしくも強くもないけれど。
広がる薄くて白い雲の上から暖めてくれる力もなくても
それでも耳を澄ますと
きれいな声が聞こえてくるようになりました。
気の向くままに目を凝らして
うろうろしていると
気付かなかった茂みからも
にゃーって聞こえます。
走って逃げて行く小さな足音。
おどろいて枝から飛び立つ影たち。
まもなく少し遠くから
うつくしいさえずり。
神様からもらったきれいな声がうれしいみたいに
遠くでユキが耳を澄ませているなんて知らないでうたう。
お兄ちゃんに聞いてほしいお話が
一つ増えたなんてことを知らないで
歌わないではいられないかのように。
影が差して
暗く日が沈む前に
鳥たちは羽を広げて一心にねぐらへ帰り
ユキはお部屋に入ります。
その時にはもうわかっている。
暖かな季節がやって来る少し前になったら
次に聞こえてくるのは
学校や幼稚園で覚えてきてくれた
卒業の歌
新入学の歌
春の歌
羽ばたく虫と動物たちの歌
変わらない気持ちで続く恋の歌が
いつまでも
止まらないと思うほどいっぺんに
はじまります。
鳴り響いて
誘うように続き
お外を目指した子たちはみんな
きれいな声を山ほど抱えて戻らないと
いてもたってもいられないんですね。
まもなく静かな冬も終わる頃。
ユキももうすぐ
歌と踊りとそわそわ落ち着かない気持ちで
大きな音を立てて歩きはじめる頃です!