氷柱

『作戦』
そのむかし
チョコレート販売の会社が仕掛けた策は
やがて時間をかけて定着し
人々は2月にチョコレートを食べるようになりましたとさ。
おしまい。
みんなは甘いチョコレートがロマンティックだからって
思いつきの分析をしている。
どうかな。
ただ、虫歯になりそうに甘くてしかも栄養バランス的に面倒くさいものを
お祭りにかこつけて食べられたら
何でも良かったような気がするのよね。
世間の人は軽薄だから。
たぶんポテトチップでもよかったし
コカコーラでもよかったと思うの。
コカコーラはクリスマスのサンタクロースのイメージで成功したという説があるわりに
クリスマス商戦で有利になったりはしていないようだから
奥ゆかしいものね。
その点、
チョコはちょっと主張が強すぎるかもしれない。
2月の話題はだいたいチョコ。
甘ったるい匂いでどこもかしこもいっぱい。
ひょっとしたら
こんなに節操のない日本の2月には
潮の香りが届く海辺や
いちごの町もみかんの町も
ただようチョコレートの気配で
お祭り騒ぎには興味がない子を
困らせているのかしら。
まあ──
おいしく食べてくれる人がいるのは確かなんだから。
ちゃんと歯を磨く習慣を守るなら
子供たちのおやつがほんの短い時期だけ
季節に合わせて変わっても
私の意思とは関わりがない
偶然の範囲内の出来事だわ。
世の中は懐が広いというか
ただ思ったよりもかちっとした決まりで動いてはいないと見えて
友達同士でチョコレートを交換する習慣もあって不思議ではないし
小さい子は、本番より前に作った分は
よく迷惑をかけている海晴姉さまや小雨ちゃんに感謝の気持ちであげたいと言うし
はたしていったい本番が何のことなのか知らないけど。
それにこうして種類も見た目も豊富なチョコレートがあると
贈り物とは別に、自分へのごほうびに気に入ったのを買ってみるというのも普通だそうだから
もう何がなんだか分からないわね。
ただのチョコレートデイなのね。
話を聞くとなんだか
純粋な気持ちで告白の準備をしている子がいたら
かわいそうな気もしてくるけど
ま、義理で用意されたチョコで余計な思い込みをしないでくれるかもしれないなら
こんな面倒くさいお祭り騒ぎに付き合わされるほうも
話が簡単になりそうよ。
だから──
これ以上は
言葉で説明しなくても
なんにも言わなくても
いいわよね。
わかってくれないようでは
私の下僕じゃないと。
これ以上はもう
何も言えない──
ううん、ぜんぜん言う必要がないから言わないだけ。
勇気が出ないとかそんな話じゃないわ。
先にここまで言っておけば
決して勘違いはしないだろうって思ったの。