立夏

『秘訣』
寒い日が続いて
朝晩の風邪が冷えていたって
スカートは短めのリカなので
氷柱ちゃんはいつも
なんとかしなさい!
と。
顔を合わせるたびに
使い捨てカイロをくれる。
並んで歩くと
まぶしい生まれたての朝日を前に
うつむいて手に息を吐きかける。
すらっときれいな指先が冷えるのは
リカに防寒具を渡すために手袋を渡したからなのだ。
あんまり寒いようだと
ばかじゃないの!
ばかじゃないの!
怒鳴りながら
自分のマフラーをほどいてぐるぐる巻いてくるの。
リカもマフラーくらいはするのに──
明日は雨の予報。
もしも一緒に学校に行けたら
落ち着かなくて肩が濡れるリカを見かねて
同じ傘に入れてくれたかもしれないのに
残念ながらお休み。
そういう時って
家ではさすがに
氷柱ちゃんもリカだけにはかまっていられなくて
上着を雑に放り投げるだけになるからなあ。
しかもそういう日に限って
飛び交うセーターは
あんまりかわいくないやつが結構多いから。
寒さをしのぐのに手段は選んでいられないっていうやつ。
リカ、家で過ごすときも
ゴロゴロするだけじゃないんだよ!
ちょっと好きな色を選んで
明るい気持ちになることは
オニーチャンにスイートな笑顔の魅力をあげるとき、
そうでなければ元気をうばいとりに……分けてもらいたいとお願いに行くときに
まっすぐにぶつかっていけるスピードを生み出す
ちょっとしたコツだと思うんだけどな。
寒さが増してくると
そうも言っていられなくなって
氷柱ちゃんがきびしくなるんだぁ……
そんな相談をホタおねーちゃんに話していたら
元気が足りない、
もしくは
あとほんの少し充電が足りないなら
できたてのおやつのひとかけらと
材料の余りのきれはしと
ごはんの支度のさいちゅうで補給も兼ねていいにおいの一口の味見と
いい感じの瞬間をつかまえて
気兼ねなく寄り道をするのが
ぱーっと花が開いてうれしくなる秘密らしいと
教えてもらうことができた!
あのいつも優しい笑顔の秘密はそこにあったんだよ。
なるほどねえ。
寒いときは、身も心も喜ぶお料理を用意するもんねえ。
もらうだけで大喜びをしていたリカよりも
作ってあげるほうがうれしいことが多いものなのか。
そういうものなのか。
ふふ。
いいこと聞いちゃった気がするなあ……
大事な寄り道。
大事な一休み。
ときどき立ち止まって見つける
ちょっといいこと。
よし、決めた!
お休みの日が雨なら
リカがいつもいてほしいオニーチャンも引っ張ってきて大事なことをしよう!
氷柱ちゃんにも
教えてあげたくなっちゃうかも?
いいことはどんなメニューだろう。
今度のリカは
冷たい雨にかこつけて
何の支度をはじめるんだろう!