小雨

『親しいお客』
わ、
わ、
わわわ
たいへんっ!
みんなのごはんに
並べたお皿、
ひとつのお皿に一人前。
数を数えて
みんなのお顔を思い浮かべて
元気な子には少し大盛りで
用意していったら
ママがいない分の
あーちゃんから私たちとお兄ちゃんと
いちばん大きな海晴お姉ちゃんまで
きっちり二十人前を並べたつもりが
なぜかきらりと光る
つるつるでぴっかぴかの真っ白なお皿が
ひとつだけ残っている──
そ、そんな!
小雨も信じられないくらいうっかりしているほうだけど
まさか誰か一人を忘れてしまって
お皿の盛り付けが後回しになるなんて
そんなことになるとしたら
まず候補は小雨にまちがいないのに
その小雨はここにいるんです。
どうなっているんだろう!?
確かに自分のことだから
うっかり順番を飛ばして忘れたらいけないと思って──
それは確か、昔に自分のことを忘れておやつを配ったら
手元に何も残らなくて
一人でこっそり悲しくなってしまった記憶が
うっすらあるようなないような……
なので、年の近い子と合わせて
おなかと相談しながら確かに用意したはず。
これは
小雨の分。
いいにおいのあったかそうなシチューのお汁を
ついおなかが鳴りそうなのを我慢して
無意識のうちに
おたまの半分だけ余計に入れたその時に気がついた
あれがいけなかったのでしょうか?
でも、おかわりするたっぷりの湯気がのぼるシチューは
まだおなべに残っているし
こっそりサービスした分はそんなに違いがないはずで、
ああっ、まさか
みんなの分にちょっとだけ多く盛ろうとしすぎるあまり
気がついたら、積もり積もってとうとう一人分に!?
だって今日の寒さでは
食べきれない量でないなら
もしかしたら大目がいいんじゃないかなって
つい気を回しすぎていたかもしれないし──
小雨でも冬の食卓の雰囲気につられ
いいにおいに浮かれてはしゃいで
我を忘れてついにやりすぎるなんてことが!?
あわてながら
震える指で念のために数えなおしてみたら
なぜか最初からお皿が二十一枚並んでいただけだったんです。
つ、つまらない結末ですね。
ごめんなさい。
あまりにもびっくりしたものだからつい……
それにしても、お皿を一枚余計になんてことが起こるんですね。
人数が多いから
立夏ちゃんが勢い良く並べているときは余ったり足りなかったりが普通ですけど
一人で静かにお手伝いをしている最中では珍しい気がします。
これって、自覚がないけれど寒さで調子が良くないのかも。
もしかしたら、昨日から好き嫌いを気にしてきりっとした顔をしている夕凪ちゃんが
いっぱい食べなくてはと意気込むあまりに
好きなものも嫌いなものも元気良くお口に運んでよく噛んでいるから
それにつられて二人分の量を用意してみたのかも?
それともひょっとしたら
何かの勘が働いて
まもなく私たちの家にもう一人分の
食事を共にする誰かが現れるとか──
急にそんなことになったら
びっくりしてすっかり隠れてしまいそうな小雨だから
敏感なのかも?
ううん──別に今までそんなことはなかったですね。
お菓子の教室を開いて
お姉ちゃんやみんながお友達を呼ぶ時期が来たから?
うれしい知らせがあったらなんて
根拠もなくどきっとしたり
でも、これから先の出来事では
鬼の役をする誰かが──
あ、ええと、別にお兄ちゃんが鬼のふりをする準備で大仕事の前に軽く食べておき
みんなに豆で追い払われていく真似で出て行った後に
今そこで弱っていた鬼を追い払ったようなうれしそうな顔で食卓に並んで
みんなのためにしてくれたのは内緒で
同じテーブルでまた食事をとる
去年まで何度かあったようなことが……
ええと、その、
えへへ──
厳しい寒さは続くけれど
暦の上では立春が近いんですね。
小雨が浮かれるあたたかな日も
近いうちにみんなが一緒にいるこのおうちにも来るのかな。
遠いのか近づいているのか
はしゃぐ小雨の予感は──実はちっとも当たらないんですけどね。